- 1 近代日本(明治以降)において大きな差別政策が存在しました。
それは、国家が法律や制度によって、人を選別し」「隔離し」「排除する」というものです。
次の2つが代表的な例です。
1つ目は、ハンセン病患者の隔離政策です。
日本では1907年に法律が制定され、ハンセン病患者の隔離が始まりました。その後、1931年の「癩(らい)病予防法」によって隔離政策は強化され、1953年の「らい予防法」へと引き継がれました。医学の進歩によって強制隔離を続ける必要性がなくなった後も、この隔離政策は1996年まで続きました。その間、多くの患者が家族から引き離され、故郷に帰ることもできず、場合によれば断種・不妊手術等を施され、人生の重大な選択権を奪われました。理由は、「病気がうつるから。」というものです。
隔離された場所には「療養所」という名前こそ付けられているものの、病院ではなく、いわゆる強制収容所です。アウシュビッツと同じと考えていいでしょう。療養所内で事件が発生した場合、公開の法廷のある普通の裁判所ではなく、療養所内に特別に設けられた「特別法廷」という、憲法違反の法廷で裁判がなされることもありました。
2つ目は、旧優生保護法による断種・不妊手術です。
1948年に制定された旧優生保護法は、優生劣敗の思想にもとづき、障害を持つ人間の生殖能力をなくし、子どもが持てない身体にし、不良な人間を排除するという政策を行いました。本人に虚偽の事実を告げ、病気の治療と言って不妊手術をした例なども報告されています。
国が、子どもを持てる人間と持ってはいけない人間とを「選別」していたのです。まさに、個人の尊厳と自己決定権を根本から侵害するものであり、2024年7月3日の最高裁大法廷判決でも厳しく断罪されています。
判決中の憲法違反の部分は次の点です。
- 1 近代日本(明治以降)において大きな差別政策が存在しました。
- ①憲法第13条違反
自己の意思に反して、「子を産み育てるかどうかを決める権利」を害したことは、憲法第13条が保障する「人格的生存にかかわる重要な権利」を侵害する。 - ②憲法第14条違反
特定の障害を有することを理由として、本人に不妊手術等を受けさせたことは憲法第14条(「法の下の平等」)に反する。
- ①憲法第13条違反
- 2 ハンセン病対策は「隔離」、旧優生保護法は「選別」と、それぞれの形は違います。
しかし、そこに共通するのは、国家が少数者・弱者・障害者を差別し、排除するという構図ではないでしょうか。
1つの法律や政策を作るとき、必ず、それによって利益を受ける者と不利益を受ける者とが出てきます。これ自体、仕方ありません。全員が全員、恩恵を受けるものなどありません。ただ、その場合でも決して少数者・弱者・障害者を切り捨てるような差別政策を作るべきではありません。何が差別になるかはそれぞれの感性によって違うのかも知れませんが、少なくとも、後日、最高裁から「憲法違反」と厳しく断罪されるような法律・政策は否定する感性が必要です。
近時、国会で制定される法律の中にも、裁判所で争われたら憲法違反との判決をもらいそうなものが複数見受けられます。そのような法律を作らないことが立法機関の矜持であり義務であることを忘れないようにしなければなりません。
