第206回  「国旗損壊罪 (私論)」

  1.  現在、自民党内で、国旗損壊罪の立法をめぐって議論が交わされています。
    そこで、この点についての私の考え方を申し述べさせていただきます。
    先ず、その前提として、現在、我が国には、
  2. ① 外国国章損壊罪(刑法92条)
    1項 外国に対して侮辱を加える目的で、その国の国旗その他の国章を損壊し、除去し、又は汚損した者は、2年以下の拘禁刑又は20万円以下の罰金に処する。
    2項 前項の罪は、外国政府の請求がなければ公訴を提起することができない。
  3. ② 器物損壊罪(刑法261条)
    他人の物を損壊し、又は傷害した者は、3年以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金若しくは科料に処する。
  4. 1 保護法益について
    「保護法益」というのは、この法律によって何を守ろうとしているのかということです。
    外国国章損壊罪の保護法益は、日本と外国との外交上の利益です。
    これに対し、日本の国旗(以下、「日の丸」と言います。)に対する損壊行為を禁じようとするのは、「日本国民の日本という国に対する想い」を壊されたくない、汚されたくないからであろうと思います。即ち、この「想い」あるいは国民感情が保護法益と考えられます。
    この「想い」や国民感情を罰則で縛る必要があるのか、というのが次に問題となります。国民一人一人、「日の丸」に対する「想い」は異なると考えられ、この「想い」そのものを変更させることは憲法19条で保護される「思想・良心の自由」に照らし、絶対に許されません。この「思想・良心の自由」は絶対的自由です。心の中で何を考えようと(例えば、「日本人を誰でもいいから10人殺したい。」と考えても)、絶対に保護されます。
    しかし、この「想い」がわずかでも外部に発現され、それが他者の利益を侵害する場合には他者の利益との調整が必要となります。
    次に、「表現の自由」(憲法21条)との関係が問題となります。
    憲法21条1項には、「集会・結社及び言論・出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。」と規定されています。この表現の自由は民主主義の根幹を支える極めて重要な権利であり、安易にその制限を認めることはできません。
    そこで、「日の丸」を損壊するという行為も一種の表現行為であるとすれば、その制限は相当程度に抑制的かつ限定的でなければならないでしょう。
  5. 2 立法事実について
    「立法事実」、即ち、「その法律を作らなければならないだけの現実的必要性やそれを裏付ける事実関係」がない旨主張する人もいます。この立法事実がなければ、そもそも、法律を作る必要はありません。
    しかし、私は実際にその現場にお目にかかったことはないですが、SNS上に流れてくる各種デモ等において、「日の丸」を燃やしたり、踏みつけたり、を付けたりしている場面が多数映し出されているので、これらが事実であれば立法事実がないとは言えないのではないか、と思います。あるいは、将来に亘って「日の丸」が損壊される可能性がゼロでない以上、立法事実はあると評価すべきです。
  6. 3 器物損壊罪との関係について
    「日の丸」も器物です。したがって、他人の器物を損壊すれば、器物損壊罪に該当し、「3年以下の拘禁刑」です。隣の家に忍び込んで、隣の家の「日の丸」を損壊すれば、器物損壊罪で処罰すればいいのです。ここで注意しなければならないのは、単純に考えて構成要件を作ると、いわゆる「観念的競合」(刑法54条1項)となり、器物損壊罪だけが適用され、国旗損壊罪を立法化する必要がないことになります。そのため、器物損壊罪ではなく、国旗損壊罪が適用されるようにするためには、要件に相当な縛りをかけ、注意的に「器物損壊罪は適用されない」旨の条項を入れておくことが必要でしょう。
    加えて、器物損壊罪は「3年以下の拘禁刑」と、外国国章損壊罪よりも重いので、「日の丸」を損壊した時に器物損壊罪ではなくて国旗損壊罪を適用するためには、別個の要件、例えば、「公然性」や「侮辱の目的」や「行為の悪質性」などを付け加える必要性があるでしょう。
    もう一つの問題は、自己の所有する「日の丸」を、日本国と日本国民を侮辱する目的で損壊したような場合です。他人の所有する「日の丸」との差は付けなければならないでしょう。あるいは、処罰の対象から外す、という考えもあるでしょう。ここは、考え方の分かれるところだと思います。
  7. 4 目的犯とするかどうか。
    「目的犯」とは、ある一定の目的のもとになされた行為だけを処罰の対象とする犯罪です。例えば、「日本国や日本国民を侮辱する目的」などがこれです。
    この目的を入れずに単に行為態様だけで犯罪となることを認めると、かなり処罰範囲が広がるので、これは入れるべきでしょう。例えば、芸術家が芸術行為の一環として「日の丸」を損壊したとしても、国旗損壊罪は成立しないことになります。勿論、異論もあると思います。
  8. 5 公然性を必要とするかどうか。
    密室の中で「日の丸」が損壊されたとしても、さほど国民感情を傷つけることにはならないので、「公然性」即ち、「大勢の大衆や聴衆がいる前で」という要件を付けた方がいいでしょう。
  9. 6 損壊の態様について
    これについても、憲法31条があるので、抽象的にならず、しかも、侮辱の意図が表されているような態様を数例挙げておくのが無難でしょう。
    例えば、「引き裂き」「焼却」「汚損」などを挙げ、「その他これと類する方法にて損壊した」とまとめるのがいいのではないでしょうか。
  10. 7 刑罰について
    これをどの程度にするかが難しいところです。あまり重くすると「思想・良心の自由」や「表現の自由」と抵触することになるし、他方、器物損壊罪や外国国章損壊罪とのバランスも考えなければなりません。2000万円のベンツ一台を叩き壊しても最高3年以下の拘禁刑なのに、「日の丸」一枚燃やしたら、それよりも重くなるというのはバランスがとれず、まさに「思想・良心の自由」を罰すると評価されるでしょう。
    諸々考えると、「2年以下の拘禁刑」くらいが妥当であると考えます。但し、自己所有の「日の丸」の場合はもっと軽くすべきです。
    罰金をどれくらいにするのがいいのか、はっきり言って分かりませんが、外国国章損壊罪と同じくらいかな、と思います。
  11. 8 親告罪にする必要があるかどうか。
    これは、必要ないでしょう。
  12. 9 まとめ
    以上の諸問題を克服しつつ、国旗損壊罪を立法化するとすれば、
    ①公然と、公共の場所において、日本国あるいは日本国民を侮辱する目的で、我が国の国章を引き裂き、焼却、汚損、その他これに類する方法にて損壊した者は、2年以下の拘禁刑又は20万円以下の罰金に処する。
    ②前項の国章が自己の所有にかかる場合は、1年以下の拘禁刑又は10万円以下の罰金に処する。
    ③第1項の罪に該当する行為については、刑法261条その他の損壊罪は適用しない。
    という形になるのではないでしょうか。
  13. 10 最後に
    国旗損壊罪を立法化すれば、必ず、「憲法違反である。」との訴訟が提起されます。その時、裁判所から「憲法違反」との判断が下されない様にあらゆる角度からの検討が必要です。それは単に要件のみならず、刑罰の重さにも慎重な配慮が必要です。
  14. 上記のような厳格な要件を定めた上での立法であれば、私も賛成です。