認知症が進行した高齢者の遺言書

母は、10年前から高度の認知症を患い、老人ホームで生活していたのですが、先月他界してしまいました。その後、私が遺品を整理していたところ、亡くなる1年前に母が自筆で書いた遺言書を見つけたのですが、この遺言書は有効なのでしょうか。

遺言をするためには、遺言の当時、遺言を書いた本人に遺言能力が備わっていることが必要です。遺言能力とは、遺言事項の意味内容などを理解して自らの判断で遺言をなしうる能力を指します。
そのため、認知症を患っている高齢者が遺言する場合、この遺言能力が備わっていなかったとして、せっかく作った遺言書が無効と判断されてしまう可能性もあります。
しかし、認知症を患う高齢者の作成した遺言書が全員一律に無効とされるわけではなく、遺言能力の有無は具体的な事情に基づき個別に判断されます。
この点、遺言書の作成当時、遺言者に遺言能力があったのか否かが問題となった場合、最終的には裁判所が判断します。
裁判所は、認知症の程度、遺言書を作成した経緯、作成当時の状況、遺言の内容の難易性などを総合的に考慮して遺言が有効なのか無効なのかを判断していきますが、一般的に裁判所が最も重要視する判断要素は認知症の程度であると思われます。
そして、認知症の程度については、遺言書が作成された時点での改訂長谷川式スケール等の簡易検査の結果、CT等の画像診断の結果、治療や投薬の状況に加え、要介護認定時の訪問調査の結果、主治医意見書の内容、老人ホームなど施設における日々の看護記録上の記載内容などを根拠として、判断されることになります。
ご相談のケースでは、お母様の認知症は10年前から高度であったとのことですので、遺言書を作成した時点で一時的に認知症の症状が改善していたなど特段事情がない限り、無効と判断される可能性が相応にあるものと考えます。