相続人が行方不明の場合

先般,母のあとを追うように父が他界したところ,父は遺言書を作っていませんでした。そこで,父の相続人である私,兄,妹の三人で遺産分割協議をしたいのですが,数年前から兄は行方不明の状態です。これから私と妹はどのように遺産分割協議をすべきでしょうか
ある方が亡くなり,相続人となるべき者が複数人いる場合,相続人全員が参加しなければ遺産分割協議を行うことはできません。それ故,仮にあなたと妹さんの二人だけで遺産分割協議をしたとしても,それは無効な協議となります。 ご質問のケースでは,一般的に,まず行方不明の相続人(以下「行方不明者」といいます。)の戸籍を辿って現在の本籍地を調べたうえ,本籍地上の市町村から戸籍附票の発行を受けるによって,行方不明者の現在の住所地を調べることになります。 しかし,戸籍附票上の住所地に行方不明者が必ず住んでいるとは限らないため,場合によっては調査しても行方不明者の所在が分からないというケースがあります。 そこで,このような場合には,行方不明者の従前の住所等を管轄する家庭裁判所に対し,「不在者財産管理人選任の申立て」を行います。「不在者財産管理人」とは,行方不明者の財産を本人に代わって管理する第三者のことです。 相続人が行方不明の場合,通常,不在者財産管理人には,相続に直接の利害関係がない親戚,又は,弁護士など法律の専門家が選ばれます。そして,選ばれた不在者財産管理人が行方不明者に代わって遺産分割協議に参加することになります。但し,不在者財産管理人はあくまでその名のとおり行方不明者の財産を「管理」する権限しかありません。そこで,不在者財産管理人は,実際に遺産分割協議を進め,協議が調う状態になった段階で,家庭裁判所から遺産分割協議を成立させることについての権限外行為許可を受けることになります。 不在者財産管理人が選ばれる事案では,遺産分割協議の内容として,「帰来時弁済型」による遺産分割の方法が採られることがあります。帰来時弁済型とは,遺産分割の段階では行方不明者に遺産を相続させず,行方不明者の所在が明らかになった段階で,多めに相続した特定の相続人が行方不明者に対して代償金というお金を支払うことにより対応するという方法です。 なお,もし行方不明者の行方不明期間が7年間以上に及んでいる場合には,家庭裁判所へ失踪宣告の申立てという別の手続きを採ることにより,遺産分割協議を調えることも可能です。