第90回   いわゆる夫婦別姓制度について

第90回   いわゆる夫婦別姓制度について
                                                          - 2016年2月5日

いわゆる夫婦別姓制度について
 民法750条は、「夫婦は婚姻の際に定めるところに従い、夫または妻の氏を称する。」と規定しています。いわゆる「夫婦同姓の原則」です。つまり、日本の民法は夫婦の同姓を強制しており、これに反する婚姻は認めないという立場です。法律上は「夫または妻」と規定されていますが、96%が夫の姓を名乗っているのが現実です。
 昨年、この夫婦同姓の強制が憲法に違反するのではないかということで争われた事件の最高裁判決がなされました(平成26年12月16日言渡)。最高裁は、同姓制度に男女間の形式的不平等が存在するわけではないので規定は合憲であるという初めての判断を示したうえで原告側の請求を棄却しました。そして、原告側が求めた「選択的夫婦別姓導入については国会で判断されるべきだ」としました。要するに、法律上は夫または妻となっており、一方的に妻側に夫への姓の変更を強制しているわけではないから法の下の平等には反しないが、それ以上に進んで法律をどうするかという問題は国会で判断しなさいという結論でした。
 結論そのものに関してはいろんなご意見があろうかと思いますが、私がこの判決で面白いと思ったのは次のような点です。最高裁は15人の裁判官で構成されています。現在、女性裁判官が3人です。夫婦同姓を「合憲」としたのは15人のうち10人、5人は反対の「違憲」という意見でした。3人の女性裁判官は全員が「違憲」という反対意見でした。12人の男性のうち、10人は「合憲」、2人は「違憲」という意見だったのです。そこで、私は、私の事務所の女性事務員に夫婦同姓を強制することは法の下の平等に反するか(男女差別にあたるか)という点でアンケートを採ってみました。すると、7割の事務員が夫婦同姓を強制することはおかしい(憲法に反する、法の下の平等に反する)という意見でした。今回、原告となった女性の方々はかなり女性としての権利意識が高い方々だろうと思っていましたが、最高裁の女性裁判官全員、及び我が事務所の女性のうち7割が憲法違反と考えている点を踏まえると、決して無視することのできない意見ではないかと思われます。
 確かに、現在、法律上は夫婦となり、戸籍上は同姓にはしているものの、職務上、結婚前の姓を使っている女性がかなり増えてきております。やはり、結婚して姓が今まで使ったものから別の姓に変わるということにはかなり不都合があるのではなかろうかと思います。私は男性ですから、当然の如く妻が私の姓に変わるものと思っておりましたし、周りもそのように考えておりました。しかし、必ずしも女性達が本当に心の底からこの制度を承認しているわけではなく、やむを得ず、「今までの日本のやり方だから。」とか、「皆がしているから。」という消極的な理由で姓の変更をしているのではないかと思います。仮に夫婦の姓が別になったとき、子どもに悪影響を与えるのではないかというのが反対派の意見ですが、世界的に見れば姓を同一にするというのは日本だけと言われています。最高裁は重い課題を国会に投げかけてきたと言わざるを得ません。ただ、この問題を考える場合、どのような結論を出すのが最も妥当かということを、男の立場、女の立場、子どもの立場や「家」の立場など、さまざまな立場から考える必要があるでしょう。