第158回  目標

人間には、さまざまな目標があります。私もこれまでいろんな方々の目標に接する機会がありました。
1 朝日新聞の記者になったH君
大学生の時、同じゼミ員だった彼は将来の路を探したいという想いから、一人で三浦半島の小さな漁村を旅していました。その頃の彼にはようやく一つの進むべき目標が見つかりました。その時に出会った一人の漁師との会話。
漁師 「20年も経てば、ここで漁をする人はいなくなる。あんたは何になりたいんだい。」
  「新聞記者です。」
漁師 (目を輝かせながら・・)「俺も、親がいい教育を受けさせてくれていたら新聞記者になりたかった。よその国の大臣だろうと、悪ければ悪いと書ける。そうだ。漁師と新聞記者が世の中で一番いい仕事だ。どっちも無限の仕事だからな。」
その後、大学卒業と同時に彼は朝日新聞社に入社し、「新聞記者になる。」という目標を達成したのです。おそらく世界中のいろんな偉い人に対しても、「悪いものは悪い。」と書いていることでしょう。



2 「そこまで言って委員会NP」の司会をしていた辛坊次郎君の場合
辛坊君も同じゼミ員でした。軽井沢の合宿の時、辛坊君から言われました。「俺はテレビに進みたい。テレビ局2社の入社試験はものすごい倍率だった。自分は3人までは残ったが、最後の2人には入れなかった。それを見て不憫に思った日本テレビがその系列である読売テレビを紹介してくれた。」
あれから40年。辛坊君は「そこまで・・・」を辞め、ヨットでの太平洋横断にチャレンジし、1度失敗した後、往路69日間、復路62日間の航海に成功したのです。
ところで、この頃、大学生時代に作成したゼミ文集の辛坊君の欄を読んでいたら、彼は次のようなことを書いていました。「もう一つ夢がある。それは、ヨットによる単独無寄港世界一周に挑む事である。これは人生に一区切りつけた時点で必ず実現させてみせる。例え幾つになろうともだ。」
辛坊君も、学生時代にヨットでの太平洋横断という壮大な事業を将来の目標に立て、見事にそれを実現したのです。すごい男です!



3 Mさんの場合
先日、狂言を見るために、母校・早稲田大学に行きました。開演まで少し時間があったので、法学部で商法の教授をしている大塚英明君を呼び出して雑談することにしました。
法学部1階のラウンジで昔話に花を咲かせていると、大塚君より、「そうそう、古庄、お前が法学部読書室で勉強していた頃、3階読書室で一緒に司法試験の勉強をしていた10歳ぐらい年上のMさん、この頃また法学部読書室に来て司法試験の勉強をしているぞ。」と言われました。正直、驚きました。いくら司法試験に年齢制限がないとは言え、Mさんは私よりも確か10歳ぐらい年上でしたので、現在、70歳代の半ばです。その人が、また司法試験を受けて弁護士になろうとしているのです。私は、司法試験に合格した後、Mさんと疎遠になったので、これまでMさんが何をしていたのかは知りません。「いい歳をして、なに馬鹿なことをしてるんや。」と考える方が大半だと思います。しかし、Mさんは「司法試験に合格して弁護士になる。」という目標を今でも持っているのです。70歳代半ばになってもまだこのような「目標をもって努力していること自体」がすばらしいではありませんか。



それでは来年も良いお年をお迎え下さい。