第152回  やっぱり、実刑か

去る6月18日、東京地方裁判所は元法務大臣のA氏に対して「懲役3年の実刑」判決を下しました。やっぱり・・・という感じです。しかも、判決後に保釈も取り消され、直ちに東京拘置所に収監されたとのことです。

「実刑」とは実際に刑務所に入れられ、囚人(受刑者)として強制労働に従事させられることです。これに対し「執行猶予」とは、執行猶予期間中に新たな犯罪を起こすなど特に問題なく過ごせば刑務所に入らなくてもいいという制度です。

実刑と執行猶予とでは雲泥の差があります。我々が刑事事件の弁護人となる場合、考えることは、①この被疑者・被告人が本当にやっているかどうか、②やっているのであれば、罪を認めたうえで執行猶予を狙うかどうか、③執行猶予がむずかしい場合、刑期を短くしてもらうためにはどうするか・・・などなどです。

Aさんの場合、判決言渡日からちょうど1年前の2020年6月18日に逮捕されましたが、当初は無罪を主張。そして9月に弁護人を解任しました。おそらく弁護士らと意見が対立し、「無罪をとれない、つまらん弁護士たちだ。」と思ったのでしょう。

その後、解任した弁護士らを再び選任し、無罪の主張から一転、「認め」に転じ、①国会議員辞職、②歳費の返還、③贖罪寄付など、なり振り構わずに寛大な処分を求めて執行猶予狙いに行きました。何としてでも刑務所に入りたくなかったのでしょう。しかし、検察官の求刑は重く、裁判所も「3年の実刑」判決を言渡したのです。「懲役3年の実刑」は、実は私も予想していたところです。

今回の公職選挙法違反事件、100人以上を買収し、買収総額も合計で約2900万円にも達する大がかりなものでした。万が一、当初から犯罪を素直に認めて改悛の意思を示し、議員辞職し、歳費を全額返還し、高額な慈善寄付をしていたとしても、執行猶予が付くかどうか極めて微妙な事案でした。これを、当初は無罪を主張し、弁護人まで解任して裁判所に二度手間をとらせるなどというドタバタ劇を演じた以上、裁判所が「改悛の情が顕著」などと判断することはないでしょう。むしろ、当初、無罪を主張していた点からすると、裁判官は「元法務大臣のくせに裁判を甘く見ている小ずるい奴!」「こんな奴には重い刑罰を与えるべし!!」と思ったのではないでしょうか。

今回、A元法務大臣に執行猶予が付かず、3年の実刑になった責任がどこにあるのか、はっきりしたことは分かりません。しかし、弁護士の立場から一つだけ言えることがあります。それは、真実やっているのであれば、「とにかく無罪を主張する」のではなく、事実として罪を正直に認めたうえで出来るだけ軽い判決をもらうように最大限の努力をするということです。「悪いこと」をしたのなら、とにかく謝罪することです。「悪いこと」をしたにもかかわらず、「俺はやっていない。」と嘘を付けば、結果的にその不利益は大きくなって自分にはね返ってくるのです。

高等裁判所に控訴したとのことですが、刑事事件は第一審中心主義なので、控訴しても判決がひっくり返ることはほとんどありません。ということは、A氏はこのまま長期間、塀の中で囚人として暮らさなければならないのです。

元法務大臣から懲役3年の囚人へ転落。塀の中に落ちるのか、塀の外で踏みとどまるのか、意外と単純なところに分岐点があるのではないでしょうか。そして、もう一つ言えることは、法務大臣と囚人とは紙一重と言うことかもしれません。