第144回  残さぬ幸せ、残せぬ幸せ

残さぬ幸せ、残せぬ幸せ

1 弁護士などという因果な稼業をしていると種々な死の場面に立ち会うことがあります。
①Aさん(逝去時95歳)の場合
会社の社長をしていましたが、30年前に妻を亡くし、爾来、単身でした。総資産は数億円ありましたが、子どもや兄弟がいなかったため、財産の持って行き場がありません。5年前、会社の部下の子どもと養子縁組をして、今後の世話はすべて養子にしてもらう予定でした。しかし、「養子が何もしてくれない!」とのことで、養子縁組無効の裁判を起こし、その係争中に旅立たれました。結果、財産はすべて養子に行きました。
②Bさん(逝去時90歳)の場合
1億円を超える資産を持っていました。1人息子がいますが、40年前に東京に出て行ったきり帰ってきません。5年前、近所の友人に息子の愚痴をこぼしたところ、「(ある)財団に寄付して社会のために貴方の財産を役立てたら。」と勧められ、「息子に相続させるぐらいなら。」と、ある財団に全財産を譲渡する契約書にサインさせられました。契約書には小さな字で難しいことが色々と書かれていましたが、読むことも面倒だし、質問することも申し訳ないと思い、深く考えずにサインしました。後日、親しい人に相談したら、「あの財団は、今、新聞で話題になっている詐欺財団である。」と教えられました。契約書の内容が難しく、よく分からないままサインしたということで契約を取り消し、譲渡した1億円以上の財産を戻して欲しいという裁判をしている途中に亡くなりました。
③Cさん(逝去時70歳)の場合
10年前に亡くなりました。死亡時の遺産の総額は10億円を超えていました。子どもは3人いましたが、幼い頃から仲の良い子ども達でした。遺産は、不動産(東京、大阪、大分)、預金、株、宝石、絵画その他です。3人の子ども達で、誰がどれを取得するのか、決着が未だについていません。10年以上に亘って、訴訟・調停・審判の繰り返しです。仲の良かった3兄弟も仲が悪くなり、法事なども一緒に行うことはなくなりました。従兄弟同士も連絡すらとっていません。
④Dさん(逝去時70歳)の場合
3年前に亡くなりました。小さな会社を経営していましたが、経営状態は良くなく、数千万円の負債を抱えていました。子どもは3人いましたが子どもの教育には熱心で、3人とも一流大学まで出し、それぞれ立派な資格を取り、現在、社会でバリバリ働いています。
父親が数千万円の負債を抱えていたことを知った子ども達は3人とも相続放棄をしました。これで、被相続人である亡父親の負債を引き継ぐことはなくなりました。(勿論、財産を引き継ぐこともできませんが・・・)
相続人であった3人の子ども達の家族は、今でも仲良く交流しているとのことです。
2 弁護士の重要な業務の中に遺産分割があります。遺産分割の際、相続人の代理人として調停等の手続に関与する場合、できるだけ遺産の額が大きい方が弁護士としてはありがたいのです(それによって、弁護士の報酬の金額も変わってきますので・・・)。しかし、他方、被相続人(即ち、亡くなった人)はどのようにしてこんな財産を作ったのだろうか、被相続人が子ども達の相続争いを知ったらどう思うであろうか、ましてや子々孫々まで争うことになったらどうであろうか・・・などと考えてしまいます。「何とか早く解決してあげたい。」と思っても、そうは問屋が卸してくれません。
財産は、残さぬ方、いや、残せぬ方が幸せかも知れません・・・