第145回  60年ぶりの判例変更

60年ぶりの判例変更

去る11月25日、地方議会が議員に科す懲罰のうち、「議会への出席停止」の取消しを裁判所に求めることができるかどうかが争われた訴訟の上告審判決で、最高裁(大法廷)は「議員には住民の代表として議事に参加する責務があり、出席停止は裁判の対象になる。」との判決を下しました。何と60年ぶりに判例変更したのです。
ご存知のように日本は法治国家ですので、先ず、憲法や法律に当てはめて、合憲か違憲か、合法か違法かを判断します。しかし、憲法や法律にきちんと当てはまらない場合、あるいは憲法や法律に当てはめると具合が悪い場合には、裁判所は「部分社会の法理」(注①)とか「統治行為論」(注②)などという小難しい理論を持って来て、何とか「違憲」「違法」という判断を回避しようと努力してきたのです。自衛隊が憲法9条に反するかどうかを判断しない「統治行為論」や、衆議院の1票の格差について「違憲状態ではあるが違憲とまでは言えない。」などという分かったような分からないような判決など、その代表的なものです。
その中でも、地方議会を含め、独自の内部ルールを持つ団体の紛争については、その団体の内部規律に委ねるべきであり、司法審査の対象とするべきではない(即ち、裁判の対象にならない)と判決していました。議会に限らず、弁護士会や医師会などでも同じことが言えます。弁護士会の懲戒委員会で6か月間の業務停止処分を受けた弁護士が、その処分が不当であるとして裁判所へ訴えたとしても裁判所は「門前払い」をしていたのです。
ところが、です。先般、最高裁(大法廷)は15名の全員一致で、60年前の最高裁判例を変更し、議員の「出席停止」処分について司法審査の対象になるとしました。議員は憲法の定めた地方自治の原則を実現するために活動しているところ、出席停止になれば住民の負託を受けた議員の責務を十分に果たすことができなくなるので、活動の一時的な制限だとしても司法審査の対象になるとしたのです。
日本は法治国家であると同時に判例国家でもあります。中でも最高裁の判例は絶対で、現場の裁判官にとって最高裁判例はバイブル同然です。これが60年ぶりに変更になったのですから、さぁ大変。これから種々な部分社会内の紛争が司法の場に登場してくるでしょう。
日弁連でも、毎月、多数の弁護士が懲戒処分を受けていますが、これに不服がある御仁はどんどん裁判を起こしてくるのでしょうか。私自身が原告になることのないように身を引き締めなければならないと思った今日この頃でした。

(注①)「部分社会の法理」・・・・
日本の司法において、団体内部の規律問題については司法審査が及ばないとする法理
(注②)「統治行為論」・・・・・・
「国家統治の基本に関する高度な政治性を有する国家の行為」については、法律上の争訟として裁判所による法律判断が可能であっても、その高度の政治性ゆえに司法審査の対象から除外するという法理。