第143回  信頼関係

信頼関係

1 いろんな場面で「信頼関係」が必要です。「夫婦」「親子」「使用者と従業員」「選挙人と被選挙人」「内閣総理大臣と閣僚」「日本の総理大臣とアメリカの大統領」等々。そして、相手を「信頼」する気持ちが薄れたり、なくなったりすると、両者の関係は徐々に壊れて行くものです。最悪の場合、「戦争」まで発展することもあります。一度壊れた「信頼」を取り戻すことは並大抵ではありません。

(余談ですが・・・)弁護士という職業についてから何百件という離婚事件を扱いましたが、すべて、壊れた「信頼」を元通りに修復させるという内容ではなく、どうやれば依頼者にとって如何に有利に「別れさせる」ことができるか、という関与の仕方でした。激しい子どもの奪い合いの事件もありましたが、あの事件の子どもさん、既に30歳ぐらいになっていると思います。今はどうしているのでしょうか・・・。壊れかかった夫婦の関係を修復させるような仕事をされている方は本当に素晴らしいと思います。

2 「信頼」といえば、我々弁護士と依頼者との「信頼」関係も極めて重要です。民事事件、刑事事件のいずれも重要ですが、その中でも、自分の一生を左右するかもしれない重大な刑事事件において特にこの事が言えます。「信頼」できない弁護士をいつまでも自分の弁護人にしておくわけには行きません。弁護士にしても、自分を「信頼」してくれない人の弁護人をいつまでも続けるわけには行きません。このようなことから、「辞任」「解任」という問題が生じるのです。

先般、昨年7月の参院選広島選挙区をめぐる買収事件で、元法相で衆院議員の河井克行被告人が、突如、自分の弁護人6人全員を解任しました。このため、「妻の案里被告人との証人尋問が重複する。」「100人を超える証人尋問を2度もしなければならなくなる。」「裁判が長引いて『100日裁判』の要請に反する。」などと、裁判所はたいへん頭を痛めているようです。マスコミ報道によると、解任の理由は「保釈されず、準備が思うようにできない。」ため、とのことです。要するに、「保釈を取れない弁護士たちに能力がない。」と考えたからでしょう。つまり、被告人が弁護士を「信頼」できないと考えたのです。

確かに、保釈がとれるかどうか、弁護士の「力」によるところも少しはあります。あるいは、担当する裁判官の性格・考え方にも左右されます。しかし、重大なのは、「事件の筋(スジ)」なのです。今回の事件は、①買収されたという人間の数が多いこと、②買収したとされる人間が国会議員であり、買収されたとされる人間が地方議員であり、その力関係が違っていること、③買収の回数や金額が多いこと、④被告人が否認していること、などから「事件の筋」として保釈が認められにくい案件でした。かえって、いきなり6人の弁護士を解任したことで、裁判官は克行被告人について、「わがままで自分勝手な人間」「非常に感情的な人間」「もしも保釈で外に出したら何をするかわからない。」「場合によれば証人威迫をするかも知れない。」「なるべく保釈を認めない方が良いのではなかろうか。」・・・と考えたのではないでしょうか。

克行被告人が真実、無実なら徹底的に頑張って欲しいと思います。しかし、一つだけ確かなことは、今回の弁護人解任劇によって克行被告人が保釈で解放される可能性は増々小さくなってしまったということです。

現弁護人を解任した以上、克行被告人は新しい弁護人を依頼することになりますので、是非、新しい「力」のある弁護人との間で「信頼」関係を築いて、今回の難局を乗り越えて行って欲しいものです。