第139回  検事長辞任

検事長辞任
皆さんは、検事総長、検事長、次長検事、検事正、次席検事、正検事、副検事、検察庁、警視庁、県警、警察官、検察官、裁判官、弁護士・・・の違いを正確に言えますか?紙面の関係上、詳細は省きますが、司法試験に合格するとなれるのが、裁判官・検察官・弁護士の3者です(これを、いわゆる「法曹3者」と呼びます)。
「検察官」(=検事)とは、刑事事件の被疑者について警察を指揮して捜査し、起訴(注①)するかどうかを決め、法廷で訴訟活動を行い、求刑(注②)をすることまで認められているのです。場合によれば、総理大臣を逮捕・起訴したりすることもできますし、あるいは凶悪な犯人に「死刑」を求刑して、人間の生命を奪う権限まで与えられているのです。その意味で、ものすごい権力を認められている役人です。この検察官の中で1番偉いのが最高検察庁の検事総長(全国で1人だけ)で、2番目に偉いのが高等検察庁の検事長(検事長は全国で8人しかいません)ですが、その検事長の中で1番の出世頭が東京高等検察庁の検事長である黒川弘務さんでした。(ちなみに、全国各県に地方検察庁があり、そのトップが検事正です。余談ですが、大分の場合、検事正のボーナスは廣瀬知事よりも高かったと思います・・・)。
安倍政権は、「政権に近い黒川検事長を検事総長にするために検察庁法を変えようとしている・・・」とマスコミから厳しく追及され、コロナの次順位の話題として検察庁法の改正問題が、連日、報道されてきました。野党からの攻撃材料にもされ、この問題で国会もしばしば紛糾してきました。私は黒川検事長について、「自分のことが原因で国会が大いに紛糾しているのに、どうして辞表を叩きつけて、『そんなに俺のことで国会がもめるなら、検事なんか辞めてやる!』と言わないのか?!男なら、それくらいはやったらどうか。やはり、検事総長になりたいからいつまでも検事長の職に連綿としているのか?!」と密かに思っていました。
しかし、なんと、黒川検事長、国会で連日、自分のことが問題となっている最中に親しい記者らと賭けマージャンをしていたことがバレ、5月21日に辞表を提出したのです(ちなみに退職金は7000万円だそうです)。賭けマージャンは「常習賭博罪」に該当し、3年以下の懲役です(刑法186条1項)。検事と言えどもマージャンはしますし、その時にわずかながら金も動きます。しかし、自分のことが国会で大問題となり、国会が紛糾し、そのことで総理大臣が窮地に立たされ、自分自身も日本中の注目をあびているときに、親しい記者らと堂々と賭けマージャンをするという図太い神経を持っていることには驚かされました。しかも、日本国政府が国民に対して「3密」を避けるように強く要請しているときに「3密」の代表であるマージャンを日本国の公務員たる検事がしていたというのです。黒川さん、小役人的な検事ではなく、大変に図太く図々しい神経を持っていることに感服いたしました。「これぐらいの図太い神経の持ち主なら、是非、検事総長になってもらい、日本中の全検事を引っ張ってもらいたかった。」と考えたのは私だけではないと思います。しかも、賭けマージャンが絶対にばれないと思ったところが、捜査を指揮する検事にしてはあまりにも抜けており、人間として大変好感を持たせていただきました。検察庁から惜しい人材を失いました。残念です。

(注①)起訴・・・刑事事件を起こした者に対し、刑事処分(その種類としては、「死刑」「懲役」「罰金」「科料」があります)をしてもらうために、裁判所に裁判を起こすこと
(注②)求刑・・・刑事事件の被告人に対し、一定の刑罰を科するように裁判所に求めること