強制執行逃れ

私は、昨年、知人に1000万円を貸し付けました。その知人は、私以外からも多額の借金をしているのですが、先日、その知人が、唯一の財産である自己名義の住宅と敷地を、内緒で他人に譲渡してしまいました。このような知人の行為は、許されるのでしょうか。
1 その知人が、真実、その住宅及び敷地を譲渡したのか否かによって、適用する民法上の条文が変わってくるため、場合を分けて、回答します。 2 第1に、知人の行った譲渡が仮装であった場合について、検討します。 まず、所有権が移転するためには、当事者間に、真実、所有権を移転させるとの意思(売買の意思、贈与の意思など)が生じていることが大前提となります。 しかし、知人と現在の名義人が通謀して、住宅及び敷地の譲渡を装った場合には、通謀虚偽表示に該当し、民法第94条第1項が適用されることから、その効果は原則として無効となります。 そこで、この場合には、あなたは、その知人に代わって、現在の名義人に対して、住宅及び敷地の登記名義を元に戻すよう請求することになります。 3 第2に、知人の行った譲渡が仮装ではなく、真実、譲渡の意思に基づいて行われた場合について検討します。 ここでは、当該譲渡が贈与のように無償で行われたケースや不動産の時価よりも大幅に廉価な価格で売買された場合を考えます。 この点、知人は、あなた以外からも多額の借財をしていることから、知人の前記行為により、あなたを含めた債権者は、知人から全額の弁済を受けることができなくなります。 このような場合、あなたを含めた債権者は、民法第424条に規定された債権者取消権を行使することで、知人の行った無償又は廉価な譲渡の効力を取り消して、知人の元へ住宅及び敷地の所有権を戻すことができます。 ただし、債権者取消権は、本来は、知人が自由になしうる譲渡の効果を取り消すものであり、また、譲り受けた名義人の利益を損なう可能性もあることから、これを行使するためには、訴訟を起こす必要があるとされています。 そして、一般的に、①:知人の行為により、債務者である知人の総財産が減少し、あなたを含めた総債権者に対する弁済資力に不足をきたすこと、②:知人のみならず、譲り受けた名義人が、取引時に、①の事実を認識していたこと等が必要とされます。 この点、弁護士の観点から見ると、②の要件を証明することは、他人の内心に関する事項であることから、困難を伴います。これまでの知人と譲り受け名義人との関係、住宅及び敷地が売買されるに至った経緯、具体的な売買契約当時の状況などを総合的に判断して、これを証明することになりますが、訴訟を提起する場合には、事前にこの点に関する証拠を十分に確保しておくことが不可欠です。 4 以上が、民事上の救済策です。他方、刑事上については、強制執行を免れる目的をもって財産を仮装譲渡した者は、刑法第96の2により、強制執行妨害罪に該当し、2年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処せられることになります。したがって、あなたの知人も同罪にて処罰される可能性があります。