第86回   国会の品位

第86回   国会の品位
                                                          - 2015年9月4日

国会の品位
 国会の品位はいったいどこに飛んでいったのでしょうか。
 憲法第41条は、「国会は国権の最高機関であって、国の唯一の立法機関である。」と規定しています。「国権の最高機関」ということは、三権の中で、内閣や最高裁よりももっと上の地位にあるという意味です。
 現在、参議院において安全保障関連法案の審議がなされていますが、それに先立つ衆議院での審議の際のことについて甚だ遺憾に感じているのは私だけではないはずです。去る7月15日、衆議院で安保関連法案が採決されました。一部マスコミなどはこの採決を「強行採決」と言っていますが、一定の時間審理して、それでも合意に達しない場合は採決を行うのが民主主義のルールであり、「強行」でも何でもありません。この採決を行う時の画像がテレビなどで流されていますが、民主党を中心とする反対派の議員達が手に手に「アベ政治を許さない」「自民党感じ悪いよね」「強行採決反対!!」などなどのプラカードを議場に持ち込んでテレビカメラに向けて見えるようにし、委員長に採決をさせないように妨害行為をしていました。そもそも議場にこのような大量のプラカードを持ち込むことが許されるのでしょうか。国会周辺で反対運動が起きていますが、その際に反対派が持っているプラカードと同じプラカードを国会の議場内に持ち込んで実力で妨害するというのでは、国会の内も外もまったく同じであると言わざるを得ません。国会が冷静に審議を行うところであるにもかかわらず、このような品位のない方法で採決を反対するやり方にはどうしても与(くみ)することはできません。特に、以前社民党の議員であり、その後、秘書給与詐欺事件で有罪判決を受けた辻本清美代議士がテレビカメラの正面に陣取って泣き真似をしてテレビカメラをちらちら見ながら浜田委員長に「お願いします。採決しないでください。」などと言っている姿は、もはやこれは出来の悪い三文芝居を見せられているようなもの、思わず笑ってしまいました。憲法第58条2項本文には、「両議員は、各々その会議その他の手続及び内部の規律に関する規則を定め、又、院内の秩序をみだした議員を懲罰することができる。」と規定しています。このように国会内にプラカードを持ち込み、採決を実力で阻止しようとする議員達を懲罰にかけることはできないのでしょうか。加えて、後日の報道によると、その議員達は持ち込んだプラカードを一切持ち帰ることなくそのまま議場にうち捨てたまま出て行ったとのこと。議場に残されたプラカードのゴミの山を片付けたのは国会の職員の人達であったということです。そもそも人としていかがなものかと思うのは私だけでしょうか。
 これが、もし、裁判所の法廷内における行動だったらいかがでしょうか。当事者や弁護士あるいは傍聴人がプラカードを持ち込んで判決を行おうとする裁判官に判決させないために阻止するなどということは到底考えられません。万が一、そのような行為を行おうとする者があれば、直ちに裁判所の廷吏によって法廷の外に引きずり出されたり、あるいは警察によって逮捕されたりしてしまうと思われます。しかし、国会にはこのような秩序はないのでしょうか。
 以前、裁判所でも「荒れる法廷」がありました。いわゆる過激派の学生達が捕まったとき、過激派出身の弁護士達が法廷を荒らしたのです。また、私が弁護士になりたての今から30年ほど前などは、地方労働委員会における審問の際に労働組合側が激しく騒ぎ立てているにもかかわらず地労委の公益委員がそれを一切制止しないという無秩序状態があったことも記憶にあります。しかし、今、そのようなことを裁判所や地労委などで目にすることはありません。
 国会議員は少なくとも一定の人々からの支持を受けて国会に送り出されたわけですから、その職に相応しい見識と品格を持って職務に携わってほしいと思う次第です。国民が益々国会離れを起こさないためにも・・・。