第56回  「 アメリカ大統領の犯罪 」

第56回  「 アメリカ大統領の犯罪 」
                                                         - 2013年3月8日

アメリカ大統領の犯罪
 2011年5月、国際的テロ組織アルカイダのリーダーと目されていたウサマ・ビンラーディンが潜伏中のパキスタンの民家でアメリカの特殊部隊に急襲され殺害されました。殺害の瞬間をアメリカ政府高官達がビデオで見ており、その時のクリントン国務長官の驚く表情など、まだ記憶に残っている方は多いのではないでしょうか。

 ビンラーディンの隠れ家を突き止めたCIAの女性諜報員を主人公にした「ゼロ・ダーク・サーティ」という映画が現在公開中です。既に観た方も多いのではないかと思われます。この映画で明らかになったことは、CIAは被疑者から自白を取るために未だに水責めなどの拷問をしていること、特殊部隊がビンラーディンの隠れ家にヘリコプターで急襲した際、1台が墜落するというドジをやっていたということ、相手がほとんど無抵抗だったにもかかわらず、数十人の特殊部隊がいきなり隠れ家を襲って女・子どもの目の前で男を殺害し、しかも息の根を止めるために死体の上から何発も弾丸を撃ち込んだことなど。噂には聞いていたものの、アメリカは実際にこういうことをやっていることが良く判りました。
 その家にビンラーディンが居るかどうか確たる根拠もなく、CIAの女性諜報員の第六感だけに頼ったものであったことも明らかになっています。アメリカがイラクに戦争を仕掛けたときも、「大量破壊兵器があるはずだ」という「勘」に頼ったものの、結局、「勘」が外れ、イラクには大量破壊兵器が無かったということで国際的な批判を受けました。今回も、またしても「勘」に頼った攻撃だったのです。

 特殊部隊とはいえ、アメリカの国家機関である以上、ビンラーディンを殺害してもよいという指令は最高責任者オバマ大統領から出ているはず。いくらビンラーディンがテロ組織の主導者であるからといって、裁判にもかけずいきなり寝込みを襲って撃ち殺すことに問題はないのでしょうか。オバマ大統領はいわば殺人犯の共謀共同正犯(むしろ首謀者)といっても過言ではないでしょう。にもかかわらず、「オバマ大統領を殺人犯として裁け。」という声が出ないのは何故か。不思議でたまりません。例えば、安部晋三総理大臣が日本の公安警察を使って密かに北朝鮮の金正恩を殺害した場合、安部総理は殺人罪に問われないでしょうか。そんなことはないでしょう。いくら北朝鮮が日本に対し脅威的存在であるとしても、いきなり襲って殺せば殺人罪になることは明らかでしょう。どうしてアメリカがやれば殺人罪にならないのか?

 大東亜戦争末期、日本がほぼ壊滅的であったにもかかわらず、しかも、日本がソ連を通じてアメリカとの和平を工作していたにもかかわらず、アメリカのトルーマン大統領は広島と長崎に2発の種類の違う原子爆弾を投下しました。どちらの原子爆弾の方が威力があるのか、人体実験を行ったのです。しかし、戦争犯罪者として裁かれたのは日本人であり、数十万の命を奪ったトルーマンが犯罪者になることはありませんでした。何故か?アメリカだから?要は、世界の中でアメリカがやったことはすべて正義、アメリカは如何なることをやっても裁かれない、アメリカのやったことに対しては誰も文句も言わない、これが今の国際世論なのでしょう。
 さすがにクリントン国務長官は女性であるだけにビンラーディン殺害の瞬間を見て驚愕したようですが、他のアメリカの政府高官達は顔色一つ変えていませんでした。
 目の前で夫や父親を殺されたビンラーディンや同居していた他の家族達(3家族、十数人が同居していたと映画ではなっています)はその後どうなったのでしょうか。ビンラーディンが過激派だから何をしてもいいのでしょうか。どうも私にはよく理解できません。仮にオバマ大統領がアメリカ国内において、数百人を殺害した殺人犯を自らの手で直接撃ち殺した場合、これも殺人罪に問われないのでしょうか。その場合は殺人罪に問われるのでしょうか。特殊部隊を使ってビンラーディンを殺害させたことと自らの手で殺人者を殺すこととの間に法的な違いがあるのでしょうか。

 どうも、このあたりが曖昧にされたまま、アメリカがやるんだからそれは間違いないというような世論になっているところに怖さを感じるのは私だけでしょうか。
 日本は「アベノミクス」などといって久々の円安・株高に浮かれていますが、20年後30年後を見据えたとき、アメリカとの関係を現状のままで良しとするのか、よく考える必要があると思うのです。