第130回   身柄の拘束

1 私たちが自分の意思に反して身柄を拘束されるのはどのような場合でしょうか。①犯罪等を行い、裁判所から逮捕状や勾留状などが発布されている場合、②裁判所から懲役刑や死刑などが言い渡され、刑の執行として身柄を拘束される場合、③粗暴癖などがあり、他人に危害を加えるおそれがある場合、④自損癖があり、自分に危害を加えるおそれがある場合など、限定的です。自己の意に反して身柄を拘束されることは原則としてありません。「身体の自由」は保障されています。

2 ところで、今月、身柄拘束に関して2つ興味深い報道がありました。

(1) 1つは日本中を騒がせた、いわゆる「あおり運転」に関するものです。

高速道路上で極めて危険なあおり運転をし、しかも被害者を5発殴ったことまでテレビ等で報道され全国指名手配を受けた宮崎文夫容疑者が逮捕される場面です。逮捕される場面があのようにテレビ等で報道されることはこれまでありませんでした。おそらく警察がテレビ局に情報をリークし、その情報を受けてテレビ局も警察と一緒に張り込んでいたのではないかと思います。あのような形で逮捕の場面を報道することが果たして人権侵害にならないのか、弁護士の立場から若干疑問に感じました。今後、この点が問題化されてくる可能性は十分にあります。

面白かったのは、逮捕される現場において宮崎容疑者が、「俺は自分から警察に出頭する。」「だから逮捕なんかする必要はない。」と盛んに言っていたことです。自ら「警察に出頭する。」と明言しており、もはや逃亡することは極めて難しい状況の中でも逮捕状が出ている以上逮捕する必要があるのか、それとも逮捕せず任意の出頭という形で警察まで同行すべきだったのか、議論の余地があろうかと思います。

(2) もう1つ、8月7日付読売新聞に詳しく報道されていました。

6月19日午後1時過ぎ、今年2月に懲役3年8月の判決が確定した小林誠被告が、収容のため神奈川県相川町の自宅を訪れた横浜地検小田原支部の事務官らに包丁を振り回し、乗用車で逃走したという報道です。新聞によると、粗暴的な小林被告が収容に強く抵抗する可能性があったにもかかわらず、地検は人員配置などを十分に検討せず、応援の警察官とも具体的な方法や手順を綿密に打合せせず、警棒や防弾チョッキなども用意していなかったとのことです。小林被告は懲役3年8月の判決だったので、長期間刑務所内で身柄を拘束されることを嫌がって逃走したものと思われます。実刑判決の確定した人間の「絶対に刑務所に入りたくない。」という気持ちは半端じゃないと言われています。そういう被収容予定者の心情について、身柄拘束に行った検察庁の事務官らは深く思いを致さなかったものでしょう。収容に行った時、警察の協力も得ていなかったとのことですから、気軽な気持ちでお迎えに行ったというのが実情ではないかと思います。しかし、「何としてでも刑務所に行きたくない。」という人間は、その場から逃走し、場合によっては誰か関係のない人間を人質にしてどこかに立てこもるとか、第2、第3の犯行を行う可能性も否定できません。万が一にもそのような事態を発生させてはいけませんが、検察庁はそのような事態が起こるだろうなどということはまったく予測していなかったのではないかと思います。

3 読売新聞によると、一審で懲役5年以上の判決を受けても保釈される被告は5年前の2.5倍(60人)に増えているとのことです。したがって、身柄を拘束しに行ったときに同じように逃走されてしまう可能性はかなり増えてきたといっても過言ではありません。保釈が以前より認められやすくなったことは我々弁護士からすれば喜ばしいことではありますが、逃走などという予期せぬ事態を発生させることなくスムーズに身柄拘束できるように、担当する職員の方々にもそれなりの認識・技能を兼ね備えてもらいたいものです。