第97回 強制加入団体
- 2016年10月7日
強制加入団体
私たちが所属する日本弁護士連合会(日弁連)は、いわゆる「強制加入団体」といわれるものです。わかりやすく言うと、いくら弁護士の資格を持っていたとしても、日弁連及びその下に位置する各都道府県の弁護士会(単位弁護士会)に所属しなければ弁護士としての活動ができないのです。したがって、例えばA県の弁護士会に属していた弁護士が不祥事を起こし、そのA県弁護士会から退会命令を受けたとき、他の単位弁護士会がその弁護士を受け入れなければ、その弁護士は弁護士の資格を持っていたとしても活動できないのです。
さて、来る10月7日に福井市で開かれる日弁連主催の「人権擁護大会」で日弁連は、「平成32年までに死刑制度の廃止を目指す。」という宣言案を提出することになりました。この宣言案が採択されれば、日弁連は正式に死刑制度廃止を目指す団体として認知されるでしょう。しかしながら、死刑制度については国民の8割がその存続を望んでおり、廃止を求める意見は国民的には多数ではありません。当然、弁護士会内部からも廃止の宣言には大きな批判の声が上がっています。にもかかわらず、このような宣言案を盛り込むことにしたのは一体何故なのでしょうか。これは日弁連の組織と大きく関係しています。
日弁連の組織は単位弁護士会及び各種委員会で構成されています。何十という委員会が日弁連の中にあります。その委員会で決まった内容を理事会に諮り、理事会で決まったことを会長が日弁連の声明として発表する、あるいは日弁連の統一的見解として提案するという仕組みになっています。問題は、この委員会です。国会議員の場合「族議員」というのがありますが、日弁連においては「族委員」という人たちがいて、当該委員会を牛耳っています。以前私が日弁連の某委員会に所属していましたが、そこにいた族委員の主要メンバーは元学生運動の活動家の人たちでした。その主要メンバーの意見が当該委員会の意見となり、それが理事会にかけられ(理事会というのは各単位弁護士会の会長で構成されており、出てきた案にほとんど賛成するのが一般的になっています。)、最終的にそれが日弁連の意見となっていくのです。日弁連の意見となれば、それが各単位弁護士会に下ろされ、単位弁護士会(例えば大分県弁護士会)の意見としても公に発表されることになるのです。弁護士である以上、社会正義の実現、基本的人権の擁護を尊重することは当然ですが、それから更に踏み出した政治的問題あるいは思想信条に関わる問題を日弁連の統一見解として出してしまうことには疑念が無いわけではありません。今回の死刑廃止についても、私などは死刑廃止は時期尚早と考えています。
しかし、日弁連人権擁護大会で可決されれば、あたかも日本の弁護士全員が死刑廃止を求めているかの如き宣言を出すことになるのです。昨年成立した平和安全法制についても、集団的自衛権の行使を内容とするものであるが故に日弁連は反対声明を出しましたが、一人一人の弁護士から意見を聴取すれば、決して反対派が多数派というわけではなかろうと思います。しかしながら、強制加入団体である以上、それに反発したところで、日弁連から脱退することはできないのです。
日弁連は、強制加入団体であるということをもう一度よく考え、政治的な問題あるいは思想信条にかかわる問題については自制をするという態度が必要ではないかと思います。そうでなければ日弁連はますます国民から見放されてしまう団体になっていくでしょう。