第85回 中国の弁護士
- 2015年8月7日
中国の弁護士
今から10年くらい前、私が大分県弁護士会の国際委員長をしていたときのことです。大分県以外の九州各県の弁護士会はそれぞれ外国と交流提携をしていましたが、その相手方のほとんどが韓国及び台湾の弁護士会でした。私は、どうせ交流するなら制度の異なる国の弁護士会の方がいいと思い、中国にアプローチしていきました。幸い私のポン友である早稲田大学の大塚英明教授の教え子が北京の清華大学に居たので、その人に間に入ってもらい北京弁護士会と交流することができました。大分県弁護士会はその当時わずか100名足らずに対し、北京の弁護士の数は1万人を遙かに超える人数であり、規模が違うので到底不可能な話でしたが、とにかく中国の首都である北京から攻めようということで北京に行った記憶があります。
中国の弁護士制度は日本と全く違います。まず、行政府の建物(大分で言えば大分県庁)の中に弁護士会があるのです。弁護士事務所も、どれだけ共産党員がたくさんいるかによって優秀な事務所かどうかの評価が決まるとのことでした。要するに、すべて共産党の監督下に置かれており、「弁護士自治」や「司法権の独立」などというものはあり得ないのです。我々が北京の弁護士の代表者何名かと懇談する際にもすべからく共産党の「書記」と称する人間がくっついてきておりました。監視役のような「書記」が同席する場所ではなかなか本音が言えません。
日本に留学したことがある某弁護士と最後に中華料理を食べに行った時、書記も居ず、酒の力も手伝ったのでしょうか、某弁護士は本音を言いました。「中国の弁護士は刑事事件はほとんどやりたがりません。何故ならば、刑事事件を一生懸命やると、一生懸命にやった弁護士自身が当局によって逮捕されてしまうからです。したがって、中国では基本的人権を擁護するような事件よりも、どれくらい儲かるかというような民事・商事の活動が主になっています。基本的人権の擁護・社会正義の実現を理想とする日本の弁護士とは大きく異なっています。」とのこと。
ところで、今年の7月以降、中国では200名前後の弁護士が治安当局によって相次ぎ逮捕されているとのことです。新聞報道によれば、拘束された弁護士の大半は陳情者や農民工などの支援を中心に活動する弁護士で、インターネットなどを通じて治安当局者による人権侵害事件の詳細を暴露し積極的に発信してきたことが共通の特徴だとのことです。しかも、これら弁護士は共産党の一党独裁体制に反対するなどの政治的主張はしていないとのことです。彼らが担当する事件で被害者の利益を守ろうとして法律を武器に政府の手法を批判したことが政府の逆鱗に触れ、「社会秩序をかき乱す罪」を犯したと政府によって認定され、今後、国家安全法や国家転覆罪などの重罪に問われることがあるとのことです。
この報道に接し、10年ほど前、北京の弁護士が酒の席で本音として喋っていたことが鮮明に思い出されました。中国においては基本的人権を擁護する活動をしたり政府を批判したりすると当局によってその弁護士の活動そのものが弾圧されてしまうのです。「基本的人権の尊重」「法の下の平等」「司法権の独立」「表現の自由」「民主主義」などが中国にはないのです。
この中国が今、アメリカにとって代わって世界の覇者たらんと狙っています。中国の脅威に対し、我々はどうすべきなのでしょうか。中国の信義を信じていいのでしょうか。