第79回 国民を守る国
- 2015年2月6日
国民を守る国
今から30年近く前の話です。日本語のほとんど話せないあるアメリカ人男性が別府の朝見神社で女子中学生にわいせつ行為をしたということで逮捕されました。私が私選弁護人となりました。その時、福岡にあるアメリカ領事館の副領事以下数名が福岡から私の事務所までやって来て、今後の被告人の処遇について詳しく尋ねてくると同時に、同領事館勤務の日本人通訳を私に付けてくれました。当時はまだ通訳人制度がなかったため、非常に助かったものです。加えて、その副領事は毎回裁判に傍聴に来られ、事件終了後はハワイに住んでいる被告人の母親と連絡を取り、きちんと私に対する報酬まで支払わせてくれました。アメリカと違って日本の弁護士報酬が安いことにかなり驚いていたようですが・・・。
この時、私は、「アメリカという国は何と自国民の面倒をよく見る国だろうか。」と驚いた記憶があります。
フリージャーナリストの後藤健二さんと民間軍事会社の湯川遥菜さんが過激派組織「イスラム国」に身柄拘束され、当初は2億ドルを要求されていましたが、その後、湯川さんが殺害され、イスラム過激派でヨルダンに拘束されている女性死刑囚と後藤さんとの交換を求められています。ヨルダンは、あくまでも自国のパイロットの身柄解放を第1条件にしているため、膠着状態が続いています(平成27年1月30日午前8時現在)。
アメリカは、「テロリストとは取引せず」の立場で一貫しています。そのために自国民が殺害されてもやむを得ないという考え方のようです。先程の自国民に対して面倒見のいい国の印象と矛盾するような気もしないではないですが、取引すればまた同じことが繰り返されるので、長い目で見れば一切の取引をしないことが自国民の安全に資するという考え方のようです。
日本としては、安易に金を出すというやり方には賛成できません。また、安易にテロリストの要求に屈するわけにはいきません。しかし、「自国民を何としても守る。」という強い姿勢は貫いてほしいのです。日本国民は見ています。日本という国が国民を守ってくれる国なのかどうかを。結果的に功を奏さず最悪の事態になったとしても、国民を守るために一生懸命に努力を続けたという姿勢が重要なのです。
今回、ヨルダン政府を巻き込んでの対応ゆえに非常にむずかしいと思いますし、水面下でのかけ引きも相当なされていると思いますが、安倍政権は非常に良くやっているのではないかと思います。「テロには屈しない。しかし、自国民の命は守る。」という二律背反的な命題を科せられているのですから安倍さんも大変です。以前、福田赳夫元総理が、「人命は地球よりも重い。」とのたまって、ハイジャック犯の要求に屈し、捕っていたテロリストたちを解放するとともに多額の金銭を交付したことがありました。まさに、「テロに屈した」瞬間でした。世界中から非難されたことは言うまでもありません。
我々弁護士も、示談交渉をよく行います。たまには心理戦を展開することもありますが、人命がかかっているケースはほとんどありません。今回の交渉に比べれば気が軽いと言えます。総理大臣でなくて本当によかった。