第77回 金にならない事件
- 2014年12月5日
金にならない事件
安部晋三総理が衆議院を解散し、12月14日が投開票日と決まりました。現在、選挙活動の最中ですが、今一つ、盛り上がりに欠けています。「解散に大義がない」といわれていることと関係がありそうです。
選挙といえば、いつも問題となるのが「一票の格差」です。憲法14条で「法の下の平等」を謳っているのに、それぞれの有権者の一票の価値が違いすぎるのです。例えば、去年(2013年)7月の参議院選挙では、議員1人あたりの有権者数が最少の鳥取と最多の北海道で4.77倍でした。分かり易く言えば、例えば、鳥取では1人の国会議員を通すのに1000人投票すれば足りるのに、北海道では4770人の人が投票しなければならないことになり、北海道の有権者の「一票の価値」が鳥取の有権者の4.77分の1しかないということになるというものです。これが「法の下の平等」に反するというのです。
11月26日の最高裁判決では、「格差は著しい不平等状態にあった」として、「憲法違反の状態だった」との判断を示しました。一方、選挙制度の見直しが必要だと指摘した前回の最高裁判決から選挙まで約9ヶ月しかなかったことなどから、「選挙までに制度の見直しがされなかったことが違憲とまではいえない」として、「選挙無効」の訴えは退けました。
「違憲状態」と「違憲」がどう違うのかはよく分かりませんが、最高裁は、「あとしばらく我慢してあげるが、いつまでもほったらかしにすると、選挙を無効にするよ」と述べているのです。選挙が無効になれば、国会議員は当選しなかったことになります。しかし、新たな選挙制度ができていなければ、いつまでも選挙ができなくなります。参議院なら半数は残っていますが、衆議院は全員が当選無効となり、議員がゼロという状態になります。その場合、一体、どうするのでしょうか。
ところで、この「一票の格差」訴訟を進めてきたのは2つの弁護士グループです。Y弁護士率いるAグループは、Y弁護士が40年以上前から「自分のライフワーク」であると言って、コツコツと続けていました。
これに対し、M弁護士率いるBグループは10年ぐらい前から活動を始めたようですが、それこそいずれも日本を代表する超○金弁護士の集団です。いわゆる「金持ちの依頼者層」を掴み、主として「金になる事件」をやり、所属事務所は「ブランド事務所」の弁護士達の集団です。特に、代表のM弁護士は青色発光ダイオードを発明し今般ノーベル賞を受賞した中村修二氏の代理人となり会社に対して200億円の特許権侵害訴訟を起こした方です。
このような、「功成り名を遂げた」大弁護士達が「一票の格差」訴訟のようないわゆる「金にならない事件」(おそらく、ほとんど「手出し」と思われます)に粉骨砕身するのは何故なのか。「金になる事件に飽いた」「歴史に名を残したい」「最高裁判例を作りたい」「国会議員に任せておけない」など色々な想いはあると考えられますが、根底を流れるのは「法律家としての誇り」なのではないでしょうか。自分の目の前で小さな子どもが苛められていたらそれを止めるのと同じように、自分の目の前で「法の下の平等」が侵されており、被害者の大半がそれを是正する術を知らないのであれば、それを知っている「法律家」として見て見ぬふりはできないのです。その侵害行為を是正するために、「法的知識・法的経験」という武器を使って戦っているのです。彼らの活動は、弁護士という職業が崇高であることを思い出させてくれました。
自分の「趣味」で仕事をやれて羨ましいとの声も聞こえてきますが・・・。