第76回  とぼけた裁判官

第76回  とぼけた裁判官
                                                          - 2014年11月7日

とぼけた裁判官
 皆さんは「裁判官」という人々に対してどのようなイメージを持っているでしょうか。「法に厳格」「勤勉実直」「お堅い」「とっつきにくい」などというイメージを持っているのではないでしょうか。
 先日、ある新聞に名古屋家庭裁判所岡崎支部の裁判官が寝坊して審判期日に間に合わず、期日を取り消したということが報道されていました。しかも、書記官が、「別の裁判が長引いている。」と嘘の弁解をしていたとか。
 しかし、これはほんの氷山の一角。とぼけた裁判官は我々の身の回りにもいるものです。
 今から20年ほど前、大分地方裁判所にいたある裁判官は、週に1回大分本庁から中津支部に車で通勤していましたが、中津で飲み会があると酒を飲んで飲酒運転で大分の官舎まで帰っていたとのこと。これは裁判所内では結構有名な話です。この裁判官、酒を飲むと口が悪くなるので有名な御仁。ある時、酒を飲んでタクシーに乗り、タクシーの運転手に相当悪態をついたものと思います。タクシーの運転手から、かなり激しい暴行を受け、タクシーから放り出されたことがありました。その後、この裁判官は京都地方裁判所に転勤になり、あるタクシー運転手が被告人となった刑事裁判の判決の中で、「タクシー運転手は雲助である。」という判決を書いたものだから大問題になり、結局、裁判官をクビになってしまいました。
 また、私が現実に体験した笑えない話があります。福岡地方裁判所小倉支部に継続していた損害賠償請求事件。私は原告側でした。審理が終わり、小倉支部から送られてきた判決書を見ると、約700万円の支払いを相手方(被告)に命じた内容でした。依頼者と相談をした結果、判決の金額に不服があったため、福岡高等裁判所に控訴を申し立てしました。被告の方も判決に不服があるとして控訴してきました。ところが、被告側の控訴状をよく読むと、被告側に送られてきた小倉支部からの判決書では、被告は原告に対し約900万円を払えという内容になっているのです。要するに、同じ判決書であるはずにもかかわらず、原告に送った判決書では「約700万円を払え」と書き、被告に送った判決書では「約900万円を払え」となっているのです。双方が福岡高裁に控訴したため、このことが明らかになりました。もし、控訴していなければどうなっていたのでしょうか?原告が被告から900万円のお金をもらったとしても、原告の方の判決書には700万円としか書かれていないわけですから200万円もらい過ぎだということになります。被告の方の判決書には「900万円を払え」と書かれているわけですから、被告は900万円を原告に払う。にもかかわらず、原告の方からは、もらい過ぎであると言われることになります。お互いの判決に金額のずれがあることがその段階でわかったでしょう。およそ信じられないような判決です。私が小倉支部の担当の書記官に電話したところ、書記官は、「自分のミスである。」などと言っていましたが、どのようなミスなのか未だにはっきりわかりません。
 裁判を行う場合、弁護士を選ぶことは可能ですが裁判官を選ぶことはできません。出来のいい裁判官にあたることもありますが、出来の悪い裁判官にあたることもあります。長年弁護士をやっていると、裁判官の出来の善し悪しというのは何となくわかってきます。裁判官によっては、裁判所の和解案を蹴ると、その当事者に対して報復的な不利益判決を出すという根性の歪んだ人もいます。そのような裁判官の場合は、なるべく和解で終わらせるようにしなければならないということもあるのです。
 ただ単に勝つか負けるかだけではなく、裁判官の能力・性格・習癖なども念頭に置いて、より良い解決を目指さなければならないため、我々の仕事も結構大変だということをご理解いただければ幸いです。