第48回 「 トレンド 」
- 2012年7月6日
トレンド
ファッションにトレンド(流行)があるように、訴訟事件にもトレンドがあるようです。
今から約30年前、いわゆるバブルの頃は、土地をめぐる争いがトレンドでした。その約10年後には個人破産がトレンド、さらにその10年後は過払金返還請求でした。しかしながら、過払金返還請求をあまりにもやり過ぎたため、おおかたの消費者金融は倒産してしまい、我々弁護士の重要な収入源であった貸金を巡る紛争はほとんどなくなってしまいました。
それに代わって、現在トレンドとなっているのは、未払残業代請求訴訟です。
労働基準法上、残業手当は通常の給料の1.25倍支払わなければなりませんが、これを支払わずにサービス残業等をさせている企業がかなりの数あります。そして、従業員を解雇した場合、大概、その従業員は首を切られたことに対する不満を持ち、弁護士等に相談に行きます。彼らが相談に行く先は、大概、左系の弁護士。このような弁護士に相談に行った場合、まず、考えることは、解雇が有効かどうかという点です。解雇につき問題がある場合は解雇無効の裁判を起こすことを勧めます。裁判の結果、1年後に解雇が無効だということになれば、その1年間は賃金請求できるということになります。
仮に、解雇や退職そのものを争う余地がなくとも、弁護士であれば、残業代が適切に支払われていたかどうかを確認するでしょう。不規則的な勤務形態の場合、なかなか8時から5時までというふうにきちんと勤務時間を定めることができない場合があります。例えば、葬儀関係の仕事は、いつ人が亡くなるかわからないため、夜中であれ出勤せざるを得ない場合があります。このような場合、きちんとした賃金体制を整えていなければ、従業員が辞めた後に、「残業代を払え。」という請求がくることがあります。従業員の労務時間の管理まできちんとできていない中小零細企業の場合、雇いはじめの段階に残業代込みで手当を5万円出すという約束などして、その分上乗せして支払うことがあります。その旨きちんと従業員と意思疎通ができていればよいのですが、会社の方がそのように考えていても従業員がそのようにとらえていないという可能性もあります。仮にそのような約束があったとしても、実際の残業時間が月5万円を超える場合には、そのような約束は効力を持たないことになろうかと思います。したがって、会社にとって従業員の労務時間の管理は極めて重要になってきます。
中小零細企業の場合、もし、従業員が辞めた後、残業代を払えという請求をされた場合、その請求金額は数百万円、場合によっては1000万円を超える場合もあります。しかも、労働基準法上、未払残業代については付加金の制度があり、下手をすると未払代金の2倍払わされてしまうこともあるのです。このような請求をされれば中小企業の場合はたまったものではありません。一般的に従業員の労働時間の管理はタイムカードによって管理していると思われますが、実際の労働時間とタイムカードに打刻された労働時間が違う場合など、後日、裁判の中で、実際の労働時間と違うということを会社の方で立証しなければならないということになります。そのためには、他の従業員の証言や会社内における当該従業員の仕事内容などを詳細に裁判上明らかにしなければならないということになり、訴訟遂行には大変な労力がかかります。従業員の労働時間の管理は極めて大切で、下手をすると会社の存亡の危機をも招来しかねません。是非、変則的な勤務形態を採用している企業の場合は社会保険労務士などに相談してその形態に見合った労働時間の管理をする必要があろうかと思います。
現在の裁判のトレンドが未払残業代請求訴訟になっている以上、企業の方もそれに対抗するよう常日頃から念頭においておかないと、ある日、突然、数年前に辞めた従業員から莫大な未払残業代請求訴訟を提起されるということも考えられますので、十分、注意する必要があるでしょう。