国会議員になって、官僚と接する機会が格段に増しました。私が国会の中で所属する常任委員会は法務委員会なので、官僚の中でも圧倒的に法務省の人々と接することが多いのです。法務省という役所は検事が牛耳っている役所です。民事関連の法案については裁判所から出向してくる裁判官も関与しているのですが、それ以外(特に刑事関係)の法案はほとんど検事が関与しているのです。
その中で、官僚(特に検事)が「狡猾である。」と思ったことがあったので、そのことについて説明させてもらいます。
「再審法(刑事訴訟法の「再審」の部分のこと)の改正」についてです。
「再審」とは、1度終了した裁判が間違っていたことが後で判った場合に、もう一度やり直す裁判のことです。
「袴田裁判」(袴田巌さん)や「福井女子中学生殺人事件」(前川彰司さん)などの再審無罪判決で、近時、注目を集めています。
法務省・検察庁は再審法改正にずっと反対の立場をとって来ました。「今のままでいい。」という立場でした。今の再審法は、「刑事裁判に間違いはない。」という立場で作られており、間違いを暴かれたくない検察庁や裁判所には非常に都合がいい法律となっているのです。
しかし、それでは、間違って犯人とされた人はたまりません。袴田さんは死刑判決でした。たまたま死刑執行されていなかったので救われました。前川彰司さんは懲役7年の判決でした。もう、懲役の執行は終了していました。
そこで、国会議員の有志で、再審法をきちんと整備して、真に無実の人々を救い出せるようにするべく「再審法を改正する議員連盟」(再審議連)を立ち上げ、立法作業にとりかかりました。その中で、重要な論点は2つあります。
1つ目は、証拠開示。過去の再審事案を見ると、検察・警察が有罪判決をとるために、被告人に有利な証拠を隠したり、あるいは証拠を改ざんしたりすることが多くありました。そこで、再審議連としては、検察・警察のもとにある証拠で、被告人側が開示を求めたものについてはすべて開示しなければならないという法案にしています。袴田さんにしても前川さんにしても、この証拠開示が認められたので再審無罪判決が出たのです。
2つ目は、再審開始決定に対する検察官の異議申立を認めるかどうかという点です。再審開始決定が出た後は正式な再審裁判が為されます。然るに、これまでの再審事件では再審決定そのものに対して検察官が異議申立をして来ました。その異議申立が却下されてから、ようやく再審裁判が始まることになるです。袴田さんの場合、検察官の異議申立で時間をとられ、再審裁判が9年間も長期化してしまったのです。再審議連の考え方は、再審開始決定が出れば直ちに再審裁判を開始すべきである、異議があれば再審裁判の中で主張をすればいいのではないか、というものです。
ところが・・・です。
これらの再審議連の動きを知るや、法務省・検察庁はすばやく動きました。さすが狡猾です。法務大臣の諮問機関である「法制審議会」を立ち上げ、再審法についての見識の乏しい検察庁寄りの学者らをその審議会委員に任命し、再審法の改正について議論をさせているのです。そこでの議論の趨勢は、①証拠開示は広く認めるべきではない、②再審開始決定に対する検察官の異議申立は認めるべきである、というものです。要は、再審議連の考えとまったく逆であり、再審議連による立法化を阻止するために審議会を立ち上げたのです。
国会議員の大半(特に、自民・維新)は再審に興味を持っておらず、「法務省・検察庁が提出した法案であれば間違いなかろう。」と思い、法務省・検察庁案に賛成票を投じる可能性が高いのです。普段は自らの考えを言うことはなく唯々諾々と従っているように見える官僚。しかし、事が自らの権益・地位に関する場合にはここまで露骨に妨害行為を行うのです。そして、内閣や総理大臣などの事情に詳しくない人間や組織を利用して権益・地位の保全に走るのです。
今、(狡猾な)「官僚の本性」を見せつけられている思いです。
最後に。
今年は事務所開設40周年という記念すべき年でした。来年も引き続きよろしくお願いします。
