第200回  「養育費不払問題」

わが国で2024年の婚姻件数が約48.5万組であるのに対し、離婚件数は約18.5万組に上ります。1年間に婚姻した夫婦数の3分の1以上が離婚をしているのが日本の現状です。
子どものいる夫婦が離婚をする場合、親権の問題に加え、「養育費」が大きな問題となります。
離婚時に養育費の取決めをしている母子世帯は46.7%にとどまり、半数を下回っています。取り決めをせずに離婚する背景には、「とにかく、子ども引き取りたい一心で、養育費のことはどうでもよかった。」「冷静に金額の話などできる精神状態ではなかった。」など、切実な事情があります。
一方、取り決めをしても、未払や、支払いが途絶えるケースも少なくありません。支払いを受けられない事情も多様です。①支払う側が経済的に困窮している、②さまざまな口実をつけて意図的に支払わない、などで、実際、養育費を相手から回収することは極めて困難です。
現行制度のもとでは、給与や財産の差押えという手続きによって強制的に回収を図ることになります。しかし、支払い義務者が勤務先を転々としたり、勤務先が分からなければ、財産や給料の差押えは事実上困難です。預金口座の特定も容易ではなく、裁判所の「財産開示命令」にも素直に応じない例が多いのが実情です。支払義務者が公務員などの安定した職業の場合は給料の差押えが比較的容易ですが、自営業者や住所を頻繁に変える者に対しては、実効性が乏しいのが現実です。
日本の母子家庭の貧困率は44.5%(注①)で、OECD諸国の中で最悪水準にあります。最大の理由は、養育費を支払義務者から受け取っていないからです。その結果、多くの母子家庭が、子育てのためパートやアルバイトで生計を立て、生活保護や児童扶養手当などという公的支援に依存し、子供の教育・進学機会の格差を生み、結果として貧困の連鎖に繋がっています。
そもそも、差押え等の法的手続による回収には限界があります。パート等で働いている母子家庭の母親が仕事を休んで弁護士に相談するだけでも大きな負担です。仮に、差し押さえにこぎつけても、相手が勤務先をやめてしまえば再び振り出しに戻ります。
結局のところ、支払義務者側に、「支払わなければならない。」という動機を形成させない限り、養育費不払問題は抜本的に解決しません。
そこで私が提案したいのが、まずは、現在努力義務である離婚時の養育費の合意書の義務化です。そのうえで、「養育費の不払いに罰則あるいは制裁を課す制度」です。
まだ、荒削りの構想ですが、海外では既に養育費不払いに対して罰則・制裁を課している国もあります。例えば、ブラジルでは、裁判所からの支払命令に対し、支払義務者が3日以内に支払うか又は支払が不可能であることを証明しなければ、裁判官が勾留を命じ、支払えば釈放するという制度があります。また、アメリカ(ワシントンDC)では、養育費不払の場合に自動車運転免許やパスポートの停止等の行政的制裁が科されます。
このように、「支払わなければ罰則・制裁がある」というふうに支払義務者の意識を根本から変えていくことが、最も効果的で現実的な方法だと考えます。
この提案に対しては賛否両論があり、立法化までの道のりは決して平たんではありません。しかし、養育費不払いの現場を知り、子供たちの明るい未来を願う一人としてこの制度の実現を強く望んでいます。

  1. (注①)貧困率(相対的貧困率)・・・世帯の可処分所得が「全国の中央値の半分未満」の人の割合