第198回  「陛下!」

国会の開会日に天皇陛下が国会議事堂にお越しになり、参議院本会議場での開会式に臨席して「おことば」を述べられます。慣例上、参議院にしかお越しになりません。開会式の時は、衆議院議員も参議院の本会議場に来るため、大入り満員状態となります。
なぜ、天皇陛下が参議院にしかお越しにならないのか。それは、参議院が昔の貴族院(上院)の流れを汲むからです。明治憲法下では、皇族・華族など一定の身分のある者しか上院議員になることができなかったのです。よって、参議院議員のことは「参議」と言います。「議」即ち「政治」に参加できる人という意味です。「代議士」とは言いません。その後、参政権が広がり、一般民衆も選挙権を持てるようになり衆議院が出来ました。そこで、民衆に代わって議を行う人のことを「代議士」と呼ぶようになったのです。
貴族院がいいとは決して言いませんが、このような由来に照らすとき、衆議院と参議院とは性格を異にするべきです。参議院に解散がないことや6年間という長期間の任期があることからすると、参議院議員は落ちついて政策を論ずるべく、専門職に特化してもいいのではないでしょうか。
しかし、現実は、「衆議院に空きがないから」とか、「テレビで全国に顔が売れているから」などの理由から参議院議員になる人が多いのです。解散がなく任期が長いこと以外は衆議院とは違いがありません。しかし、総理大臣を狙う人は、参議院から衆議院にくら替えします。参議院議員は人数が少なく、過去、総理大臣になった人はいないからです。
参議院の独自色を出さないと、せっかく二院制にしている意味がありません。下手をすると一院制化も考えられます。これらは今後の課題です。

ところで、国会開会日に天皇陛下が国会議事堂へおいでになる際、正門から議事堂の建物までの天皇陛下の乗った専用車が通る道の両側に、保守系政党の議員(衆議院・参議院問わず)が立ってお出迎えをします。
先日の臨時国会開会日のことです。空がにわかにかき曇り、今にもひと雨来そうな状況の中で天皇陛下を待っていました。小雨が降りだしたので、皆、ビニール傘をさしています。
ところが・・・です。天皇陛下専用車が国会の正門を入って来られようとするタイミングで、ザーザーと大粒の雨が降り始めました。傘がなければズブ濡れです。私は、「まさか、傘を閉じないだろう。」と思っていたところ、皆、傘を閉じて静かに地面に置き、上半身を45%ほど前に倒し、決して頭を上げることなく、天皇専用車が自分の前を通り過ぎて行くのを見送ったのです。当然、背広はびしょ濡れ、髪の毛もパーです。私は最後の最後まで抵抗しました。誰か一人くらい傘を差し続ける議員がいるだろうと思ったのに、一人もおらず、皆、傘を閉じて下に置いたのです。最後の最後に私も傘を閉じて下に置きました。濡れた背広やみだれ髪のため、参議院本会議場に入ると、既に座っていた野党の議員から迷惑がられたことは言うまでもありません。
戦後教育を受け、新憲法を学んだ私としては、上記の様子は、ある意味、驚愕でした。天皇は象徴であり、何らの権力を持っていないのに、国民を代表する国会議員が「陛下」と呼び、大雨の中でも傘をささず、ずぶ濡れになりながらも決して頭を上げることをしない。
GHQが天皇制を残さざるを得なかった原点を見た思いでした。