第195回  「地元」

「地元」という言葉に、皆さんはどのようなイメージを持たれるでしょうか。
ChatGPTによると、①基本的な意味としては、自分が生まれ育った場所や現在暮らしている地域やなじみの深い地域であり、②広い意味では、出身地や長く住んだことのある場所を指すこともある、とのことでした。
いずれにしても、単に「居住地」というよりも、「親しみ」や「帰属意識」という感情のこもった言葉です。
先般のテレビ入りの参議院予算委員会に出席していて違和感を覚えました。
7月に参議院選挙がありますが、その選挙が近づくと立候補予定者に質問の機会を与え、テレビに映るように配慮するのです。これは与党も野党も同じ。
質問者も達者です。チラチラ、テレビカメラの方を意識しながら、「私の地元である〇〇県では・・・」「地元〇〇県の皆さんは・・・」などと連発し、自分の選挙区に対してアピールをしているのです。
その時、ふと思いました。「あれっ、この先生、この前、自分は一度も〇〇県に住んだことない。祖母の実家があっただけ。」と言っていなかったっけ。自分がまったく住んだことがなく、その選挙区から出ているというだけで、「地元」になるのですね。
ちなみに、参議院議員選挙の被選挙権の要件は、①日本国籍を有すること、②満30歳以上であること、だけです。したがって、これらの要件を満たしていれば、全国どこからでも立候補できます。選挙区に居住している必要も住民票を移す必要もありません。東京でしか住んだことがなく、大分に地縁血縁のない人でも大分から出馬することができるのです。
何となく釈然としないのは、私一人でしょうか。
ところで、現在の日本には大きな対立軸が数本あります。私が東京に出て行って感じるのは、①東京対地方(田舎)、②老人対若者、③高所得者対低所得者、④男性対女性などです。その中で、やはり一番大きいのは、東京対地方(田舎)です。
東京しか住んだことのない人間が、1週間に1本しかバスが来ない田舎のことがわかりますか。集落の半分以上が空家になっている田舎のことが分かりますか。人間よりも鹿や猪の方が幅をきかせ、人間の方がオリの中で暮らしているかの如き田舎のことが分かりますか。
その、自称「地元」選出の先生たち、国会議員になってから、その選挙区に顔を出しているかも知れません。しかし、田舎で生まれず、田舎で生活もせず、田舎の良さや苦しみを知らないのに、選挙用か何か分からないが、「地元」「地元」という言葉を使って欲しくない。
田植えをしたことのない人間に、田植えのことを語って欲しくない。稲刈りをしたことのない人間に稲刈りのことを語って欲しくない。米を買ったことのない人間に、米の値段のことを語って欲しくない。
「地元」と似て非なるものが「ふるさと」です。ふるさとは生まれ育った場所ですが、精神的なつながりが強く、懐かしさや愛着などの意味合いが含まれています。
自称「地元」選出の先生たちも、まさか「ふるさと」という言葉は使わないと思いますが、仮に、その言葉を使えば、その人は明らかに「嘘つき」であり、唾棄すべきものです。それだけ重みのあるのが「ふるさと」です。想うだけで涙が出てくるのが「ふるさと」です。
そのふるさとが、今、東京の人間によって切り捨てられようとしています。「人口減少、過疎化を何とかしなければなりません。」とは口では言うが、田舎を「お荷物」と考えているのが、東京の人間です。田舎の我々が声を上げないと、「ふるさと」はなくなってしまいます。