日本は三権分立(権力が三つに分かれている)国家です。三権とは、「国会」(立法)、「内閣」(行政)、「裁判所」(司法)ですが、この中で立法と司法との関係は如何にあるべきでしょうか。
いうまでもなく、国会は国権の最高機関であり、唯一の立法機関です(憲法第41条)。これに対し、裁判所は一切の法律・命令・規則または処分が憲法に適合するかどうかを判断する機関であり、最高裁判所がその終審裁判所です(憲法第81条)。
よって、いくら国会で慎重に議論を重ね、また、大多数の国会議員が賛成して法律を作ったとしても、それが最終的に最高裁で「憲法違反」との判断を下されれば、その法律は効力を失うのです。ある法律が効力を失えば、その法律を前提に築き上げられてきた組織や権利関係なども効力を失うので、その影響は図り知れません。
例えば、「日米同盟は憲法第9条に違反するので無効である。」と最高裁が判決を書けば、日本における日本とアメリカとの防衛に関する協定につき条約破棄するか、憲法を改正せざるを得ず、日本・アメリカ双方に図り知れない影響を与えます。
あるいは、「選挙における一票の価値の違いが大き過ぎ憲法14条に反するので平成〇年〇月〇日の参議院議員選挙は無効である。」と最高裁が判決を書けば、当該選挙で当選した議員はそもそも、その身分がなかったことになります。したがって、その参議院議員らが関与して作られた法律は無効となり、その法律を前提として築かれてきた権利関係も無効となります。その影響は甚大です。そのため、最高裁は、「違憲状態ではあるが違憲ではない。」などという訳の分からない論理で、違憲判断を回避したのです。
そこで、立法を担う国会としては、最高裁の意向を汲んで、違憲判決が出されそうな案件については、それが出される前に法律を改正しなければならないのです。違憲判決が出された後に重い腰を上げるのでは、国に対して図り知れないダメージを与えることになるのです。裁判所の判決の「流れ」を理解して、先を見越して立法にかからねばなりません。
今後、違憲判断が出されそうな案件は、①選択的夫婦別姓問題、②同性婚問題、③性同一性障害者の性転換問題、です。
③については、性転換をするための「生殖要件は違憲」との判断が最高裁で出たので、「外観要件も違憲」との判決が出るのは時間の問題でしょう。
②については、5つの高裁のすべてで「同性婚を認めないのは憲法違反である。」との判決は出ています。要するに、高裁段階では同性婚を認めるのが一般的になっているのです。
については、平成27年最高裁大法廷判決では「夫婦同氏制度は憲法違反で
はない。」との判断が下されています。しかし、同判決が出された平成27年よりも女性の社会進出は進んでいることや、②③の判決に見られるような、ジェンダーを尊重する近時の判例の傾向に照らすとき、「夫婦同氏制度は憲法違反」との最高裁判決が出されるような気がしてなりません。10年前に「憲法違反ではない。」との判決を出した10人の裁判官は1人も残っていないと思われます。
立法は司法の「流れ」を読んで、違憲判決が出される前に法律を作る必要があります。立法は司法より1歩も2歩も先を歩いていなければなりません。その法律が憲法違反などという判決が出されることは、国会に対する裁判所のダメ出しです。「10年前の判決は合憲だったから、まだ、いい。」という考えは、もはや通用しないかも知れません。
時代は変わる、人々の価値観も変わる。そのことを強く意識させられる、今日この頃です。