映画「ベン・ハー」(1959年)を観たことのない人はおそらくいないと思います。アカデミー賞を11部門(作品賞・監督賞・主演男優賞など)で獲得した不朽の名作です。監督は、あの「ローマの休日」を手がけたウィリアム・ワイラーです。古代ローマの雰囲気がそのまま再現されているのみならず、主人公のベン・ハーを演じたチャールトン・ヘストンの存在感のすごさ。復讐物語ではありながら、人間の成長や信仰といったものにまで大きくテーマを広げている作品です。まだ観たことのない方は、是非ご覧下さい。
「ベン・ハー」の中でも、最も圧巻なのは、ハンセン病にかかったベン・ハーの家族(母・妹)を投獄したローマ帝国の将校でベン・ハーと幼なじみのメッサラとの戦車競走のシーンです。「手に汗握る。」とはまさにこのことです。
「戦車」と言っても、現代の戦車ではありません。1人乗りリヤカーみたいなものに乗り、それを4頭の馬に引かせて競馬場を9周して順位を争うのです。選手は9人。その中にベン・ハーとメッサラがいます。メッサラは戦車の車輪に金属製の小細工(「スカイト・ホイール」と言うらしいです。)をし、対抗戦車の車輪を次々と砕いていきます。
この戦車競走のシーンを見ていて、先日、ふと気が付きました。
メッサラは、戦車を引いて疾走する4頭の馬をムチでバチバチしばいて(叩いて)早く走らせようとしますが、ベン・ハーはムチを使いません。普通の手綱だけで4頭の馬を疾走させるのです。最後はメッサラがムチでベン・ハーを叩き始めますが、ベン・ハーからムチを取り上げられ、戦車から落ち、他の馬たちから踏みつぶされるのです。
敢えてメッサラにムチを使わせ、ベン・ハーにムチを使わせなかったウィリアム・ワイラー監督の真意は分かりません。
しかし、これは人間の世界でも同様で、ただ厳しく罰するだけでは物事はうまく回転しません。この頃は「パワハラ」と言われ、大きな社会問題化することもあります。どうしても、「ムチでしばく(叩く)」ということの中に愛情を見出すことはできません。「手綱さばき」という言葉がありますが、手綱の操作それ自体で4頭の馬を操り、疾走させる技が必要です。手綱操作で、馬自身が自らの意思と力で走るようになるのです。馬自身にも闘争本能があるので、その4頭の馬の力を引き出してあげるのが本物の指揮官の役割だと思います。
以前、モンゴルでモンゴル馬に乗ったことがあります。馬にも感情があります。馬とうまくやれない乗り手の場合、馬が途中で座り込んで歩かなくなりました。逆に、意思疎通がうまくいっている乗り手との間であれば、馬がひとりで走ってくれます。道に穴があれば、その穴を避けて走ってくれますし、低い障害物があれば、それを跳び越えて走ってくれます。
映画の中でベン・ハーの馬4頭はアラブの商人の馬でしたが、1頭1頭に名前があり、人間と馬との間に愛情があることが良く分かりました。
余談ですが、4頭立て馬による戦車競走で最もむずかしいのは4頭の足並みですが、その中でもカーブが大変です。内側と外側の馬では走り方・脚幅のとり方などが大きく違います。ここがうまく走れないとカーブができません。この辺りは横山のやっさんが詳しかったのでしょう。
さあ、部下や社員を抱える皆様、貴方はベン・ハーでしょうか?メッサラでしょうか?