第190回  「裏金」とは

「自民党の派閥(旧安倍派)が政治資金パーティーをして、そのノルマ以上のパーティー券を売った議員に対して、その超過分が派閥から裏金として、還流された。」と言われ、「国民に対して説明責任を果たしていないのではないか。」と批判されています。
私の分かる範囲内で説明責任を果たしてみたいと思います。
先ず、「政治資金パーティー」とは、「対価を徴収して行われる催事で、その収入から経費を差し引いた残額を政治活動に使うことができるもの」です(政治資金規正法§8の2)。「政治には金がかかる」ので、金集めのために行われる、およそパーティーとは言えないもので、これは政治団体によって開催されなければなりません。
「政治団体」とは、政治上の主義や政策を推進することなどを本来の目的とする団体です。「政党」も、この政治団体に含まれます。「派閥」も政治団体です。
次に、「裏金」と言われるものの金の流れは大略、次のようです。
 →派閥に属する各議員が「派閥のパーティー」券を売ります。
1人1人、販売ノルマがあります。
 →ノルマを超えて売った場合、超過分が派閥から、売った議員に現金で支払われます(いわゆる「キックバック」)。このキックバック部分は対価を伴わないので、法的には「寄附」または「贈与」になります。このキックバック部分が「裏金」と言われているお金です。
「寄附」は政治団体から政治団体にするもの以外は認められません(政治資金規正法§21、§21の2)。
問題は、このキックバックが派閥から誰に対して為されたか、です。受入れが政治団体(例えば、自民党衆議院大分選挙区第〇支部など)であればその譲渡自体は「寄附」であり、合法ですが、それが何ら記録に残っていなければ、受入先を特定することは困難です。但し、この場合は会計帳簿の不記載で政治資金規正法(§24)違反になります。
受入先が政治団体ではなく議員個人であれば、派閥から議員への「贈与」ですから、もらった議員には贈与税がかかるので、これを納めなければ「脱税」と言われてもやむを得ないでしょう(相続税法§68①)。
そこで、問題となるのは、派閥からのキックバックは政治団体に対して為されたのか、議員個人に対して為されたのか、という点です。
ここが、分かりません。現金のやりとりですし、領収証もないので、どちらかに特定することができません。そのうえ、派閥と議員の認識が必ずしも一致しているとは限りません。派閥が「議員個人に渡した。」と言っても、議員は「政治団体が受け入れた。」と言うかも知れません。この点が、検察側がもっとも悩んだ点と言えるでしょう。どっちかよく分からないので検察は刑の重い相続税法(§68①・10年以下の懲役)違反ではなく、刑の軽い政治資金規正法違反(§24・3年以下の禁錮)(不記載罪)として対応したのではないでしょうか。現金でのやりとり、領収証等の物的証拠がないこと等が検察側の立件を困難にしたのです。
次に、キックバックを復活させたのが誰か、という点も問題となっています。
これについては、旧安倍派の事務局長の刑事事件の記録などを精査すれば、早晩、明らかになると思われます。
しかし、キックバックを決めたこと自体で犯罪になることはありません。あくまでも行為者はキックバックを受けた政治団体か議員個人だからです。「キックバックを決めたこと自体が犯罪になるという法律」は存在しません。但し、この点について明確にし、キックバックを決めた人に政治的責任をとってもらわなければ国民は納得しないでしょうし、自民党という政党に対する不信感はぬぐえないと思います。要は、「2、3人の首を差し出さなければならない。」ということです。
このように、「裏金」「裏金」とマスコミに踊らされて我々も簡単に言いますが、法的に分析すると非常にややこしく、むずかしい性格のものです。