第19回 取引
-2010年2月5日
取引
被疑者の取調べ状況の全部をビデオで録画すること(所謂、「取調べの可視化」)が冤罪事件を防ぐ唯一の道であるとして、日弁連はこの取調べ可視化運動に取り組んできました。自民党は反対の立場であったものの、当時、野党であった民主党は積極的にこれを応援する立場をとっていました。弁護士出身の千葉景子法務大臣や社民党の福島みずほ党首などは、勿論、推進派です。これに対し、法務・検察、及び警察当局は反対の立場です。せいぜい、被疑者が自白に転じた後の一部分しか録画しないという態度に固執しています。
ところが、この頃の新聞報道を見ると、鳩山由紀夫総理をはじめとする民主党の、取調べ可視化に対するトーンが急に下がり、可視化法案を国会に提出することさえ危ぶまれる状況になっています。現在、民主党の最高権力者である小沢一郎幹事長に対する政治資金規制法違反容疑での取調べが東京地検特捜部によって為されており、小沢幹事長は徹底抗戦する旨の表明をしております。さらに、鳩山総理も小沢幹事長を支持する旨発言しています。このような情勢から考えると、むしろ民主党とすれば、取調べの可視化法案を直ちに提出するのが自然な流れだと思われます。
しかし、急に、可視化に対する民主党のトーンが下がり始めたのは、一体どうしたことか。まさか、鳩山総理が母親から9億円の贈与を受けた事件で脱税に問われないこと、小沢幹事長の政治資金規制法違反事件に関し同人を事情聴取することによって幕引きをすること、などと引き換えに可視化法案を葬り去るという取引が、検察、警察の首脳部と民主党の首脳部で話し合われたなどとは思いたくありません。しかし、政治の世界、裏で何が行われているか我々一般国民は知る由もありません。(例えば、沖縄返還に際しての日米間の密約も、国民はずっと知らされないままでした。)ただ、検察、警察のトップ人事は時の政権与党の意向が働いていることは公知の事実と言えるでしょう。民主党と検察、警察首脳部が裏で取引をして可視化法案を葬り去ろうとしているなどとは思いたくありませんが、可能性がまったくないとも言えません。
是非、これが杞憂に過ぎないことを証明するためにも、民主党は自信を持って可視化法案を国会に提出するべきではないでしょうか。