1 11月28日、大分地方裁判所で、3年前に大分市の大分県道22号線大在大分港線(通称 40m道路)を194㎞/hの高速度で走行し、右折車と衝突して、その右折車を運転していた人を死亡に至らせた事件の判決が下されました。懲役8年の実刑判決です(ちなみに求刑は懲役12年です)。現在、検察・弁護ともに控訴を検討しているものと思われます。
この事件に適用されるのが「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」ですが、この法律に問題があることは、「弁護士の書斎から」(第407号)でも論じました。国会(参議院法務委員会)でも何度か質問しています。
私は、大分市内で発生した事故でもあるし、条文を読んでも解りにくいことから、この法律は「罪刑の明確性」(憲法31条)に反するのではないか、との疑念を強く抱いていました。それで、何度も国会で取り上げたのです。
私が国会でこの事件を取り上げていることを知った「被害者の会」の代表者(Aさん)が大分に来られた時に、Aさんやその奥さん、お子さんなどとお会いし、詳しく話を聞かせていただきました。また、私の考えもお伝えしました。Aさんは彼の地元有力代議士に頼んで、なんとかこの法律の改正を実現したいとのことでした。そこで、プロジェクトチームが立ち上げられ、当然、私もその一員として参加し、現法律(条文)の問題点などについて説明させていただきました。結果、当時の法相や総理も理解を示してくれ、改正する方向で動き始めました。
しかし、法律の改正となれば全国民に大きな影響が出るので、簡単には行きません。有識者会議(法律専門の学者、弁護士、検事、被害者遺族など)で現在、改正の法案が検討されています。
「『制禦困難な高速度』という条文(同法第2条2号)の意味が曖昧なのが問題である。この部分を明確にするべきである。」というのが、我々が強く求めていたことです。
有識者会議もこの点の明確化を中心に議論されており、「制限速度の〇倍以上で走行した場合」などとの、一見極めて明確な構成要件が定められようとしています。
もっとも、この改正案が国会に上程されるのは再来年以降になりそうで、それまで発生した同種事案については不毛な争いが繰り返されることになります。
2 ところで、このような曖昧な表現を用いた法律は訴訟関係者のすべてに苦痛をもたらします。
その中でも一般的に誤解を受けやすいのが被疑者・被告人です。
「(条文が曖昧な方が、検事が軽い罪で起訴するから)罪が軽くなって、いいじゃないか。」と軽く考える人も多いでしょう。
しかし、早く罪を償って社会復帰を果たしたいと考える被疑者・被告人も多いのです。ただ、それと、「何でもかんでも認める。」というのは違います。自分のやった行為に対して「適切に」判断されて、はじめて受け容れることができるのです。「不適切」な判断であれば受け容れることはできません。誰でも、「適切」な法律によって「適切」に処罰されたいのです。
この「適切」に処罰されたいという被疑者・被告人の願いを裏切るのが曖昧な条文による「不適切な法律」なのです。
今回の被告人は、事実関係はすべて認めていますし、遺族に対する謝罪の意思、悔悟の念も認められます。罪を免れたいわけではなく、「適切に」処罰されることを望んでいるのではないかと思います。
このように、法律が「不適切」だと、被疑者・被告人を含んだ関係者全員を不幸にするのです。
いいかげんな立法をした国会の責任です。