第186回  「官僚支配」

弁護士時代にはほとんど接することはありませんでしたが、国会議員になって頻繁に接するようになったものの一つに「官僚」があります。

 官僚とは、国家の政策決定に大きな影響力を持つ国家公務員のことを指します。〇〇省に勤務している役人です。エリート大学を出て、成績が良く、将来、国会議員か首長になろうと狙っている人間も多いと聞きます。

私が所属している参議院法務委員会は所管省庁が法務省なので、刑事関係の法案は検察庁の検事が作成し、説明に来ることが多いようです。刑事事件に関して言えば、彼らは被疑者・被告人を追い詰めて、「逃がさない。」という発想ですが、弁護士の発想は「無辜の人間を処罰してはならぬ。」という発想ですので、基本的に対立します。私が「日本の司法制度は人質司法(※①)と言われていることについてどう思うか。」と質問すると、「人質司法などない!」と豪語するのが検事です。

 民事事件関係の法案について言えば、主として裁判所から出向してきた民事裁判官が担当することが多いようです。検事ほど敵対関係にはなりませんが、やはり当事者の代理人として活動する弁護士と、判断者として上から見ている裁判官とでは物事の見方が違うのです。

そして、検事出身であろうと民事裁判官であろうと、彼らに共通して言えるのは、いずれも若いということと現場経験が浅いということです。

法律を作るにしても、自分たちの感覚で作るのです。

先般、法務省の若い役人が「司法試験の論文試験の回答作成をパソコンで一本化し、手書きは(読みづらいので)廃止する法律を作りたい。」と言って私のところにやって来ました。私は反対しました。

司法試験の受験に年齢制限はありません。70歳を超えても受験している人はいるのです。これらの人がパソコンを使えるとは限りませんし、仮に使えたとしても文字を打ち込む速度も遅いと思います。これを無視してこの法案を認めれば、「パソコンを打てない人間は司法試験を受けるな。」というに等しいのです。要は、官僚がその点について頭が回らず、自分の感覚で考えてしまうのです。そして、結果的に、弱者や自分の感覚の枠に入らない人を切り捨てて行っているのです。

マイナンバーカードを健康保険書に紐付けし、健康保険証を廃止にするという発想も、若い官僚の発想であると思います。カードを使っておらず、従来の健康保険証しか使えない人がいるのを知らないのです。

国会議員や大臣らが若い官僚の言うことに反論をせず、「そうやなぁ。」と言って、彼らの案を唯々諾々と呑めば、これほど官僚にとって楽なことはありません。加えて、1年ももたずに次々と代わっていく大臣など極めて御しやすいと考えているのではないでしょうか。国会の答弁なども官僚の作った文章をそのまま読んでいる大臣が多いことなどに照らせば、わが国はまさに官僚による支配が為されていると言っても良いでしょう。

「面従腹背」(※②)

これが官僚の本当の姿であると認識したうえで付き合っていくことが涵養でしょう。

※①人質司法・・・

否認や黙秘をしている被疑者・被告人を長期間身柄拘束して自白を強要する日本の刑事司法のこと

②面従腹背・・・

表面的には服従するように見せて、内心では反対していること