第184回  「法律は何のために作る?」

現在、日本には約1900の法律と約5600の政令・省令など合計約7500の法令があります。

勿論、この中で最も上位にあるのは憲法(全103条)であり、憲法に反する他の法令は効力がありません。「国家の根本規範」「法律の法律」と言われるゆえんです。当然、民法(全1050条)や刑法(全264条)も憲法の下位にあります。

日本は「法治国家」と呼ばれ、法律が国を治めることになっています。これら法律を作るのは「唯一の立法機関」(憲法41条)である国会です。それでは、法律は何のために作るのでしょうか。人によって、その理解は異なるかも知れません。ある人は、「悪い人間を懲らしめるため。」と言います。その一面もないことはないですが、私は、「権力者(為政者)から国民(人民)を護るため。」だと考えます。

法律は、国民がその行動を行うにあたっての範たるべき準則です。即ち、基準です。この基準に満たない場合は刑罰を科せられるかも分かりません。このように、法律は国民の行為に基準を設けて規制し、場合によっては罰するものゆえ、明確性が求められ、基準たるにふさわしいものでなければならないのです。しかし、この基準を満たす行動をしていれば、時の為政者であろうとも、その国民を思いのままにすることができないのです。即ち、このように、為政者から国民を護るために存在するのが法律です。これが「法治国家」たるゆえんです。

これに対立するのが「人治国家」であり、「法」ではなく、「人」が国を治めるのです。例えば、(昨日まで食糧として食べていた)「鶏を殺したら死刑に処す。」や「犯罪を犯した被疑者を弁護したら弁護士資格を剥奪する。」など、法律とは関係なく、為政者の思いのままにその権力を行使できるような国家です。日本の周辺にも3つほどあります。

これらの国では、権力者がどのようにでも形式的に法律を作るし、その法律が気に入らなくなれば、権力者がすぐに廃止するのです。権力者が国民の生殺与奪の権を握っていると言っても過言ではないでしょう。

しかし、日本は違います。国民から正当に選挙で選ばれた国会議員の手で法律が作られているのです。そう簡単には作れないし、そう簡単には改廃できません。すべて、国会で審議のうえ、国会議員の多数が同意しなければ、できません。そのため、国民は自らの権利を護ってくれる代表者たる国会議員を選ぶための一票を放棄することがあってはなりません。

そして、国民の代表たる国会議員こそ、代表としての責任と自覚を持たなければなりません。

「何のために法律を作るのか。」

国民を権力から護るために法律を作る。

法律を作る(立法)当事者である国会議員は、ゆめゆめ、このことを忘れてはなりません。「」を忘れてはならないのです。

国会は裏金問題で、政治に対する信頼は急降下しましたが、権力争いに明け暮れ、権力を握るや否や「国民を護る」という本来の任務を放棄する人が出てこないことを願うばかりです。