第181回  「共同親権か単独親権か」

夫婦に子どもが生まれた場合、その子どもに対しては父と母が共同して親権を行使します(民法第818①)。
しかし、不幸にもその夫婦が離婚した場合、どちらか一方の親が親権を行使することになる旨が民法で規定されています(民法第819)。
いわゆる「単独親権」を現民法は採用しているのです。
しかし、今、この離婚後の親権に関し、現行のままの単独親権で行くのか、それとも離婚前と同様に共同親権にするべきか、について議論が為されています。法律が改正される可能性も高いのです。

    子どものある夫婦が離婚する場合、通常、次の3点が争いとなります。

  1. 子どもをどっちが育てるか、即ち、親権者をどちらにするか、
  2. 子どもと同居できない親と子どもとの面会交流を、どのような形で、どのような頻度で認めるか、
  3. 子どもと同居できない親の養育費の支払いをどうするか、
  4. です。

    「共同親権説」の根拠は次のようなものです。

  1. 離婚した後も子どもの養育には両方が責任を持つべきである。
  2. 親権をどちらか一方にだけ認めるから、離婚時に子どもの奪い合いが発生する。共同親権にすれば奪い合いは減る。
  3. 養育費の不払いが多いのは単独親権だからである。
    共同親権であれば不払いが減る。
  4. 養育費を支払ってもらえないから面会交流が実施されない。
  5. 外国も共同親権が一般的である。
    これに対し、「単独親権」の根拠は次のようなものです。
  1. 共同親権であれ単独親権であれ、子どもの養育に責任を持つのは親として当然である。
    親権があるかどうかと、親としての責任の有無とは全く別である。
  2. 子どもの奪い合いが発生するのは「親権が欲しい。」というよりも「子どもと一緒に暮らしたい。」とか「相手には渡したくない。」という、もっと感情的・本能的な欲求からである。
    共同親権にしたからといって、片方の親は子どもと一緒に暮らせなくなる以上、残念ながら奪い合いは発生する。
  3. 養育費不払いと共同親権か単独親権かは関係ない。
    共同親権であろうと、子どもと一緒に住むことのできない親の養育費不払いは発生する。
  4. 面会交流の問題と養育費との問題に関連性はあるが、前述の通り、養育費不払いと親権とは関係がない。
  5. 確かに外国では共同親権が多いが、だからといって日本もそれに習う必要はない。

さて、この問題について、どのように考えるべきでしょうか。
私はこれまで弁護士として数多くの離婚事件に関与してきました。
また、子どもの奪い合いの事件も何件もありました。
その中で、どの離婚事件でも共通していたのは、離婚する夫婦は相手を憎んでいる、ということです。そして、離婚後は別居して暮らしており、新たな生活環境にも変化が生じているのです。
そのような状況の中で、離婚した父と母に、共同して親権を行使する前提たる信頼関係は存在しないと思われます。
共同親権説の方々は、離婚した後も子どもの養育に関しては「共同」できると、性善説に立って考えていると思われます。
しかし、申し訳ないけど実態は違うと思います。
むしろ、共同親権にすると、親権の行使に当たって再度、衝突・混乱が生じ、子どもを巻き込んだ争いが発生する可能性が高いと考えられます。
共同親権にすれば子どもの奪い合いが減る、というのも根拠がありません。単独親権であれば、仮に子どもを奪われても、親権者になれば、大方の場合最終的に取り返す事ができます。しかし、共同親権では相手も親権者ですから、取り返す事は困難です。子どもの奪い合いがより一層熾烈になるのではないでしょうか。
養育費の不払いと共同親権かどうかも関係ありません。親権があろうがなかろうが、払わない親は払いません。むしろ、別途の方策、例えば不払いに対して罰則を科す、などして、支払いを強制すれば良いのです。
面会交流についても、親権者かどうかは関係ありません。愛情の問題です。親権がなくとも、現民法は親子間の面会交流権を保障しています。
そもそも、親権者にならずとも親子関係はなくならないのです。
離婚後の父、母がうまく行っていれば、どちらが親権者になろうと問題はありません。問題があるのは、うまく行かない場合です。そして、私の経験上、うまく行かずに憎しみながら別れた2人が、離婚後は別居し、環境も異なっているのに、親権の共同行使がうまく行くような信頼関係があるとは到底思えないのです。
例えば、離婚した母が再婚し、新しい夫と子どもを養子縁組させようとした場合、その子の実の父親はこれをすんなりと受け入れるでしょうか。共同親権の行使をめぐって、再び争いが発生するのではないでしょうか。親の離婚でつらい思いをした子どもに再度つらい思いをさせることになるのではないでしょうか。
共同親権は理想ですが、現実は違うと考えざるを得ません。弊害の方が多いと考えられるのです。
ただし、離婚当事者が「共同親権の合意」をする場合にまで、敢えて単独親権にする必要はないと思うので、その場合は例外的に共同親権にすればいいでしょう。
いずれにせよ、この問題は離婚親と子どものあり方に大きな変更を与えるものなので、感情的にならずに両説を十分に検討し、子どもにとって最も良い選択をする必要があります。