時速194キロ。これが一体どれくらいの速さなのか想像もつきません。しかし、大分のある少年、時速194キロで大分市内の通称40m道路をぶっ飛ばし、右折車に激突、同車を運転していた被害者の男性(当時50歳)を出血性ショックで死亡させたのです。勿論、車は大破です。
このような自動車事故の場合に適用されるのが、自動車運転処罰法(通称)。
この法律の適用をめぐり、検察官、被害者、被告人、裁判所が頭を悩ませることになるのです。
自動車運転処罰法の「危険運転致死罪」(同法2条2号の「制禦困難な高速度での運転」)に該当すれば、「1年以上20年以下の懲役」。これに該当しなければ、「過失運転致死罪」として「1か月以上7年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金」です。
検察官は当初、「過失運転致死罪」として、この少年を起訴しました。そうすると、最高でも懲役7年です。
検察官がより重い「危険運転致死罪」で起訴しなかったのは、本件が、法2条2号に規定する「制禦困難な高速度」で運転していたと言えるかどうか明確ではない、と判断したからです。検察官としては、「危険運転致死罪」で起訴しても、仮にこれに該当しなければ、無罪となり、大変なことになる(場合によれば自分の出世にも影響する)と考え、手堅く手堅く「過失運転致死罪」で起訴したものと思われます。
しかし、制限速度の3倍以上の猛スピードで突っ走って激突して死亡させられたのに、たった「7年以下」では到底、納得ができません。そこで、遺族の方々は署名活動をし、2万8000人以上の署名を集めて、結果、検察官に「危険運転致死罪」に訴因変更(注①)させたのです。
したがって、公判で検察官は本件が「制禦困難な高速度」での事故だったかどうかの立証をしなければならなくなりました。そして、大分地裁の裁判官・裁判員は、本件が「制禦困難な高速度」での事故だったかどうかについて、判断しなければならないのです。
さて、このように、検察官、被害者、被告人、裁判所を悩ませている根本原因はどこにあるのでしょう。
憲法31条は次のように定めています。
「何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。」
これは、いわゆる「罪刑法定主義」と言われるものであり、刑事法の根本原則です。犯罪や刑罰は法律で予め定められていなければなりませんし、特に、どのような行為が犯罪になるのかは明確でなければならないのです(「明確性の原則」)。
今回、適用されるかどうか、皆が頭を悩ませているのが自動車運転処罰法の第2条2号の「制禦困難な高速度」。これがあまりにも分かりにくいのです。
- ①「制禦困難」とは、一体、誰を基準にして判断するのか。当該運転手か、通常の運転能力を持った一般人なのか。
- ②「高速度」とは、どれくらいを言うのか。