第173回  尋問と質問

弁護士と国会議員。2足のわらじ生活も半年になり、何となく要領も得てきました。
その中で、似て非なるもの。それが「尋問」と「質問」です。
裁判の時に弁護士(代理人)として行うのが尋問です。
自分の味方側に対して行うのが主尋問、相手側(敵側)に対して行うのが反対尋問。いずれも事実関係しか聞くことは出来ません。意見や感想を求めることもできません。主尋問は尋問を受ける人と事前に打ち合わせができますが、反対尋問は主尋問の後に行われるので、そういうわけにはいきません。
尋問の醍醐味は、なんと言っても反対尋問です。
弁護士として有能かどうかを判断する材料の1つに、反対尋問が上手かどうかという事があります。
その昔アメリカで、ある夜の殺人現場を目撃したという証人に対し、「その夜は月が出ていましたか。」という尋問をし、「出ていました。」という証言を引き出した後に、その夜は曇っており月が出ていなかったことを示す客観的な証拠を出し、その証人の証言の信用性を粉砕した弁護士がいました。リンカーンです。
私も相当以前、リンカーンと同じような反対尋問に成功したことがあります。その夜はうれしくて、酒が止まりませんでした。しかも、その時の尋問の相手方は、今では私の大切な交友になっています。人生とは面白いものです。
これに対し、国会での質問はかなり違います。
先ず、聞く相手方は政府の官僚です。そして、どういうことを聞くのか、議員の方からあらかじめ「通告」します。その通告を見て、官僚が回答を考え、質問期日よりも前に質問者と「レク」(打ち合わせ)を行います。
したがって、どのような質問が為されるのか、官僚は予め知っており、回答を準備しているのです。
そして、大臣等、上の方々は官僚が作った回答を読んでいるのです。
その場での当意即妙・臨機応変な回答があまり見受けられず、いわゆる官僚答弁が多く、面白くないのはそのためです。
しかし、話題になっている放送法の解釈変更問題で、3月8日に行われた参議院予算委員会での小西洋之議員の「ねつ造でなかったら、大臣・議員を辞めるか。」との質問に対する高市早苗大臣の「結構です。」という回答は小気味よかったです。私の目の前で繰り広げられました。マスコミは面白い部分だけ切り取って放送しますが、自信をもって正々堂々と答える高市大臣と、裏でコソッと書類を小西議員に渡す官僚。勝負は有りです。
更に、質問が尋問と違う最大の点は、事実関係のみならず、意見を求めることも可能ということです。
慣れた議員さんの中には、自説を蕩々と2、30分間述べた後、「大臣、どうですか?」と一言だけ付け足して聞く方もおり、熟練のなせる技だと感服したこともあります。
ただ、裁判所と違い、国会は真実を明らかにするところではなく、主権者たる国民に判断してもらうための材料を提供する場所です。国会議事堂が法廷、国会議員が弁護士(代理人)、判決が投票結果です。
尋問と質問、似て非なるものですが、これまでの長年の弁護士としての尋問技術を活かしてやってまいりたいと思います。
もっとも、政権与党側だと主尋問的な質問しかできず、反対尋問の醍醐味は味わえませんが、「国を動かす。」という壮大な醍醐味を味わわせてもらっています。