第170回  野次(やじ)

令和4年12月10日をもって、第210回臨時国会が閉会しました。

私にとって初めての国会であり、勉強会(部会)、委員会、本会議と、目まぐるしい状況でありながら、学びも多く、非常に刺激的な毎日でした。しかし、多くの議会や会合中に私が個人的に気になったものがありました。それは主として野党席より上がる「野次」です。

NHKなどで放映されている国会中継ではあまり声が拾われておりませんが、現場はかなりの大声で野次が飛び交っており、混沌とした状況になっておりました。中には野次の叫び声が幾重にも重なり、発言者の声が全く聞こえない時もありました。いつか、私が所属するある委員会で、大臣の発言に問題あったと思ったのでしょう、野党議員の方が「こんな委員会、中止、中止。」と言っていました。それを聞いていた別の野党の議員さんが「君に中止を決める権限はない。中止するかどうかは理事会協議で決める問題だ。意見があるなら、きちんと質問したらどうか。」と激しく抗議していました。「激しいなぁ。」と思っていたら、その議員さん、返す刀で、我々自民党の議員に対し、「何で自民党の議員はおとなしく黙っているのだ。反論しろ!」とお叱りを受けたこともありました(自民党の議員は野次を飛ばさなかったので、そのように言われたものと思います)。

これまで長い間、司法畑でやってきて、「法廷での審理中は静粛にすべし」という常識が染み込んでいる私の目には、このように野次が飛び交う騒然とした空間は極めて異質に映ります。

しかしながら、国会での野次は、いわば「議会の華」とさえ呼ばれる国会のお家芸。かつての国会では、機知に富んだ絶妙な野次とそれに対する演説者の反撃に、議場全体が思わず笑ってしまうような場面もあったそうです。吉田茂元首相は演説中に「お前に総理ができるのか。」と飛んできた野党議員の野次に対し、「あなたが代議士をやっていることと同じです。」と小気味よく返したといいます。

人を傷つけるような非難や罵詈雑言ばかりだと周囲の人間もいい気持ちはしないですが、思わず拍手を送りたくなるようなユーモアのある野次と切り返しであるならば、それこそ「議会の華」と呼ぶにふさわしいでしょう。

野党議員にとっても与党先導の国会の中で反抗の意思を主張する唯一の手段が野次ですから、もし野次を飛ばすのであれば、周囲が思わず「一本取られた!」と思うような野次を研究して頂きたいものです。

長期戦で単調となってしまいがちな議会中に活が入るような名野次を期待します。

ただ私個人としては、どうしても、人が意見を言っている最中は黙って聞くのが正しいように感じてしまうのですが、これは私が司法畑で生きてきたからなのでしょうか。

「郷に入っては郷に従え。」の精神で、(ユーモアのある)野次を研究すべきでしょうか。

皆さんのご意見も是非お聞かせ頂けると幸いです。

今年最後の「弁護士の書斎から」となりました。これまで好き勝手なことを書き、今回が400号となりました。来年は「田舎弁護士の戯言(ざれごと)」(No2)の発刊も計画しています。

どうか、皆様方が来年もよい年を迎えられることを祈念して、今年の最後とさせて下さい。