第169回  『わき役』

11月6日に、岐阜市内において「ぎふ信長祭り」が開催されました。
コロナ開け3年ぶり、しかもあの木村拓哉さんが信長役を務めるという事もあり、その盛況ぶりは記憶に新しい方も多いのではないでしょうか。
織田信長の衣装に身を包み大行列を率いて悠然と闊歩するキムタクの姿は、それは凜々しい武将そのもので、沿道から黄色い声が上がるのも納得の勇姿でした。
その中で私の印象に残っているのは、キムタクの側近役の伊藤英明さんの姿です。
伊藤英明さんは岐阜市出身で、2009年に信長役を務め、1953年の信長祭り発足以来の歴史的な大盛況を引き起こした当本人でもあります。
その本人が、今回の祭りではキムタクのわき役も良いところで、すっかりキムタクの陰に隠れてしまっていたような印象を受けました。
その姿を見て、今年の夏の参議院選挙での自分の姿が一瞬フラッシュバックしました。
選挙では、候補者のために永田町から有名議員が応援演説をしに来てくれます。
私の出馬した夏の参院選でも大勢の大物国会議員が応援演説のために大分まで駆けつけてくれました。その中でも特に市街地を賑わせたのは、安倍晋三元総理が大分駅前で応援演説をして下さった時です。
選挙カーの上に乗って雄弁に演説をする安倍元総理の姿に、老若男女誰もが脚を止め聞き入っていました。演説後、「一緒に写真を撮りたい。」と群がられる安倍元総理とは対照的に、私には誰も寄ってきません。それも当然です。任期最長を務めた元総理大臣と、無名に等しいいち候補なのですから。(余談ですが、安倍元総理は必ず傍らに私を呼び、「写真に入りなさい、あなたが主役なのですから。」と温かい言葉をかけてくださりました。)
状況としては、主役とわき役という意味において「ぎふ信長祭り」でのキムタクが安倍元総理、伊藤英明さんが私の姿と酷似しているように思えてなりませんでした。
そのような光景を見て、わき役を可哀想と思う方も多くいるかもしれません。
しかし、伊藤英明さんは、「ぎふ信長祭り」開催後のインタビューでこう答えています。
「自分が木村先輩を信長役に起用するきっかけをつくり、今回のイベントが実現した。イベント前に木村先輩と二人で夜の岐阜城に登り、360度パノラマの光景を見た時の感動が忘れられない。」
その言葉を聞き、私も更に共感した部分があります。
安倍元総理と一緒に選挙カーに乗って、故郷大分の皆さんや慣れ親しんだ大分市街地を見渡した瞬間の光景です。
期待に溢れた多くの方の我々を見上げる顔の数々。30年間毎日のように目にしている大分駅前ロータリー。横には、志を同じくする力強い同志がいる。「国政の場に出て、大分を、国を、変えていきたい。」と心からの叫びがほとばしったのが、あの瞬間でした。
あの時眼下に広がっていた光景を、私は忘れることはないでしょう。状況は違えど、目指す目標を同じくする仲間であり同志である。歩んでいく方向、道筋、ゴールすべてが同じ方向を向いている。その揺るぎない筋が一本通っている上では、主役もわき役もありません。その同志が志半ばで同じ光景を目にした時、きっと言葉にならない感動を感じるのではないでしょうか。
伊藤英明さんは、キムタクと二人で祭りの大成功を大いに祝ったに違いありません。
私には、安倍元総理が目指した志達成の瞬間を拝見することも一緒に祝うことも叶いませんでしたが、つらい選挙戦の中で安倍元総理と共に選挙カーの上から見た、希望の光が垣間見えるようなあの光景の数々を、きっと、一生忘れることはないでしょう。