第135回  ゴーン逃亡

ゴーン逃亡

会社法違反(特別背任)などの罪で起訴されていた日産自動車前会長カルロス・ゴーン被告が去年の12月末、保釈(注①)中で海外渡航を禁止されていたにも拘わらず、荷物ケースに身を隠してレバノンに逃亡しました。ゴーンが簡単に日本に戻って来るとは考えられませんので、おそらく日本の裁判所がゴーンを裁くことは永久に不可能となるでしょう。
しかも今回は、レバノン政府も「ゴーンのレバノン入国は合法的なものであるので法的な措置を採る必要はない。」と言っているので、いよいよゴーンが日本に戻されて日本の司法で裁かれることはなさそうです。日本の裁判所もなめられたものです。
刑事弁護人の神様のように言われていた弘中惇一郎弁護士が今回の逃亡に加担しているとは考えられませんが、メンツはズタズタに潰された形です。ゴーンにとって、依頼していた弁護士のメンツを潰すことなど、どうでも良かったのでしょう。しかも、弘中弁護士を使って警備会社を告訴し監視をやめさせていたというのですから手が込んでいます(なお、弘中弁護士は、その後、弁護人を辞任しました。「やはり」という感じです)。
それにしても、トランクの中に隠れてプライベートジェット機で脱出するなどという荒業をやってまで、何故、ゴーンは日本脱出を試みたのでしょうか。
その背景には、西洋人(欧米人)の日本に対する「差別意識」、即ち、「日本は人権意識の劣った二流の国である。」という意識があるような気がします。おそらく、ゴーンは、「日本は人権意識の劣った二流の国であるから、日本の裁判所で無罪を争ってみても自分が無罪となることはない。今、逃げなければ再び刑務所に入れられる。日本はフランスよりも劣る国なので、保釈条件を破っても大したことはない。」と考えたのではないでしょうか。
ゴーンの母国であるフランスは1789年に人権宣言を発布した人権先進国で、当然、「死刑」も廃止されています(ついでに、「同性婚」も認められています)。「死刑」が未だ存置され、しかも、実際に年間に何人かが「執行」されている日本は、欧米人からしてみると「野蛮な二流の国」と考えられているフシがあります。
今から30年以上前、あるアメリカ人を弁護したことがあります。そのアメリカ人、軽微な犯罪を犯して逮捕され、大分地裁に勾留質問(注②)を受けに行った際、裸足のまま逃亡し、湯布院の山奥でようやく捕まえられたのです。最初に付いていた弁護士が「俺の顔をツブされた。」といって弁護人を辞任したため、私がその後に弁護人に付くことになりました。「どうして逃げたのか?罰金程度で済む軽微な事件なのに。」と尋ねたところ、その被告曰く、「日本は野蛮な国です。一度、捕まると二度と刑務所から出られません。この機会を逃したら二度と外に出られないと思い、無我夢中で逃亡しました。」とのお言葉。
欧米人はまだ日本のことを「野蛮な国」「二流国」と見做しているのではないでしょうか。
ゴーンが逮捕・勾留されていたのがフランスやイギリスであったなら、果たして今回のような危険を冒してまで逃亡したでしょうか。おそらく「否」でしょう。
それにしても、日本の司法も馬鹿にされたものです。世界中の「笑い者」にされたと言っても過言ではありません。加えて、我々、弁護士にとっても保釈が取りづらくなり、大迷惑な話です。

(注①)保釈・・・・・起訴された後、勾留されている被告人について、保釈金を納付させて身柄拘束を解く制度。
(注②)勾留質問・・・逮捕された被疑者の身柄を10日間(更に10日間延長可能)拘束して取り調べを行う必要があるかどうか判断するため、裁判官が直接に被疑者に会って質問すること。