第120回 最高裁の変化
- 2018年9月28日
最高裁の変化
この頃、離婚の相談がかなり増えています。多いときで、1日4件も5件も離婚の相談を受けることもあります。その時感じるのは、この30年の間に時代が変化したということです。以前であれば、「旦那が浮気をして他に女がいる。」とか、「旦那の暴力がたまらない。」とか、「女房が浪費してたまらない。」とか、「女房が変な宗教に入って家事育児をまったくしない。」という事案が多かったような気がします。
ところが、この頃、例えば、女性から、「他に好きな女性ができたから主人と別れたい。」等という相談を受けることがあります。「え?好きな男性じゃないの?」と聞き返すと、「いいえ。好きな女性です。」と言われ、こちらの方が戸惑うこともあります。そのような時代の流れと歩調を合わせるように、最高裁の考え方も徐々に変化してきていることは見逃せません。
離婚について、民法770条1項1号は、「配偶者の不貞な行為」を離婚原因として認めています。問題は、夫が他の女性と不貞行為を結んでいるときに、夫から妻に離婚を請求できるのかという点です。「有責配偶者からの離婚請求が可能かどうか」という議論です。この点につき、我々が大学で離婚を教えてもらったときは、「そのような離婚を認めれば、女房は踏んだり蹴ったりであるから、そのような有責配偶者からの離婚請求は認められない。」というのが一般的な考え方でした(いわゆる「踏んだり蹴ったり」判決(最高裁昭和27.2.19判決など多数))。
ところが、最高裁の判例は次のように変化していきました。
① 最高裁昭和46.5.21判決
夫が妻との婚姻関係が完全に破綻した後に、妻以外の女性と同棲し、夫婦同様の生活を送ったとしても、
これをもって離婚請求を排斥することはできない。
② 最高裁昭和62.9.2大法廷判決
夫婦が相当の長期間別居し、その間に未成熟子が居ない場合には、離婚により相手方が極めて過酷な
状態に置かれるなど著しく社会正義に反するといえるような特段の事情のない限り、有責配偶者からの
請求であるとの一事を以てその請求が許されないとすることはできない。
③ 最高裁平成6.2.8判決
有責配偶者からの離婚請求で、その間に未成熟の子どもがいる場合でも、ただその一事を以てその請求
を排斥すべきではない。
このように最高裁の判例を並べてみると、有責配偶者からの離婚請求であったとしても、その別居期間が相当程度長期間に及ぶ場合には離婚請求を認めるという傾向になっています。現在の問題は、むしろどの程度別居期間が続けば離婚が認められるかどうかです。我々実務家の感覚からすれば、10年間別居生活が続けば仮に旦那が他に女性がいたとしても離婚請求は認められるのではないかと考えています。
戦後、夫婦の在り方、家族の在り方が時代と共にどんどん変容していく中で、最高裁の考え方も時代と共に変わっていることは注目しなければなりません。一昔前であれば、旦那が女房の元から逃げて他の女性と一緒に暮らし始め、何度も離婚を求めても女房は「女の意地」で絶対に離婚は認めなかった、という話もよく耳にしました。しかし、先の最高裁判例などに照らせば、裁判所などに持ち込めば長期間別居すれば離婚は認められるという時代になったのです。これら最高裁の考え方の変化を朗報と考えるのか、それとも悲報と考えるのか、あなたはいずれでしょうか。