第119回   容疑者逃亡

第119回   容疑者逃亡

- 2018年8月31日
容疑者逃亡
8月12日、大阪の富田林警察署から樋田淳也容疑者(30歳)が逃亡しました。既に2週間以上(8月27日現在)が経過していますが、依然、行方は判っていません。前代未聞の大阪府警の大失態と言わなければなりません。
さて、大半の人はほとんどこれまで逮捕勾留された経験がないと思いますので、弁護士との面会(接見)の時の状況について簡単に説明します。まず、捕まった容疑者とその弁護士とは立会人なくして面会することができます。容疑者が警察署にいる場合は警察署における面会室(接見室)で、刑務所にいる場合は刑務所の面会室(接見室)で会うことができます。いずれも警察官や刑務所職員の立ち会いはつきません。弁護士と容疑者、1対1で会って話すことができます。2人の間にはアクリル製(強化プラスチックだと思います)の透明の板がありますが、顔の高さの直径30センチほどの円状の範囲に小さな穴が沢山空いているので、お互いの声が相手に届くようになっています。面会が終わった後、弁護士は接見室内にある電話で担当職員に、「面会が終わった。」と連絡をして接見室から出て行くのが通例です。ところが、今回、樋田容疑者は弁護士に対して「接見が終わった後も警察には特に言わなくて帰ってもいい。」と伝え、弁護士もそれにしたがってそのまま帰ったので、このような事態になったようです。警察に接見終了を伝えることは弁護士の義務ではないので、やはり第一には富田林署の管理責任が問われるべきでしょう。
私もこれまで主として大分県内のいろいろな警察署で容疑者あるいは被告人との面会をしてきましたが、何点か記憶に残っていることがあります。
ある警察署で夜7時から接見を始めたところ、ドアの外から「ぐぁー、ぐぁー。」と異様な音が聞こえてきました。何かと思い弁護士の部屋のドアを開けて外を見たところ、外にいた留置管理課の警察官が大いびきを掻きながら寝ていたのです。その大きないびきのおかげで容疑者との間の会話がよく聞き取れず、「一種の接見妨害じゃ。」などと冗談を言ったりしたことなどあります。今はないと信じています。また、ある警察署では、容疑者が容疑事実を否認して頑張っていましたが、「夜寝ると監房の毛布からムカデか何かが毎晩のように出てきている。もう堪らん。早くここから出たいからすべて認める。」などと言って、否認から自白に転じたケースもありました。あるいは、今の大分刑務所は新しくなっていますが、建て替える前はかなり古い建物で、冬など我々弁護士も足が凍りそうになるほど冷たい接見室でした。弁護士の方には小さなストーブを設置してくれていましたが、容疑者側にはそのようなものはなく、かなり冷たかったと思います。当時、大分刑務所は弁護士用接見室が2つありましたが、その2つの部屋の間の壁が薄かったのか、隣の部屋の声がよく聞こえていました。隣の部屋はどうも容疑者が暴力団員のようでした。容疑者が接見室に入ってくるなり、担当の弁護人に対して「こりゃー、さっきの弁護は何か、お前は。あげなつまらん弁護して金まで取りやがって。こんガキャー。」などなど、罵声を浴びせていたのを耳にしました。暴力団員の人たちの弁護は大変だなあと思った記憶があります。
このように、私自身も接見室には様々な思い出がありますが、自分の容疑者が自分と面会した後その部屋から逃げ出すという事態は、あたかも自分が逃走を援助したような錯覚に陥り、非常に気分が悪いし精神的にも滅入ると思います。今回、接見した弁護士のことはあまり取り沙汰されていませんが、かなりマスコミなどからの批判もあり、相当程度落ち込んでいるのではなかろうかと思います。「窮鼠猫を噛む」と言います。今逃走している樋田容疑者、今後、逃げるためにどのような犯罪を繰り返すかわかりません。一日も早く身柄を拘束し、近隣の方々の不安を取り除く努力をしてほしいと思います。早くそれをしなければ、大阪府警の信用は回復しないでしょう。