第112回 伊方原発差止決定
- 2017年12月29日
伊方原発差止決定
12月13日、広島高裁(野々上友之裁判長)は、広島市などの住民4人が申し立てた四国電力伊方原発3号機(愛媛県伊方町)の運転差し止めを求める仮処分(注①)の即時抗告審(注②)で、来年の9月30日まで運転を禁止する旨の決定を出しました。伊方の対岸にある大分県の県民の1人としては、伊方原発が止まることは正直なところ喜ばしいことです。同様の裁判は大分地裁でも継続しており、大分訴訟の原告の住民の方々がこの決定を見て喜んでいることも頷けるところです。
結論は良しとしても、その理由付けについて首を傾げたくなるのは果たして私1人でしょうか。広島高裁は、①原発の耐震設計で想定する最大の揺れの強さ(基準値振動)、②東京電力福島第一原発事故を教訓に規制委員会が定めた新規制基準の合理性など、火山以外の11の争点については四国電力側の主張に「不合理な点はない」として、同電力の言い分を認めました。しかし、阿蘇山の火山の可能性がある。」という理由で差し止めを認めました。正直、私は、広島高裁の事件で火山が争点になっているとは知りませんでしたし、また、阿蘇山が理由に差し止めが認められるとはまったくの想定外でした。この点につき、広島高裁は次のように言っています。「伊方原発から約130㎞離れ、活動可能性のある火山である熊本県・阿蘇カルデラは現在の火山学の知見では、伊方原発の運用期間中に活動可能性が十分に小さいと判断できず、噴火規模を推定することもできない。約9万年前に発生した過去最大の噴火規模を想定すると、四国電力が行った伊方原発周辺の地質調査や火砕流シュミレーションでは火砕流が伊方電力の敷地に到達した可能性が十分小さいと評価できない。立地は不適で敷地内に原発を立地することは認められない。」
およそ9万年前に大爆発をした阿蘇山を引き合いに出し、1万年に1回と言われている火山の噴火について、万が一、そのような事態が発生した場合に火砕流が伊方原発に到達する可能性が小さいという証明がないから立地条件としては不十分であると言うのです。9万年前の阿蘇噴火を根拠に、1万年に1回の確率を持ち出してその危険性を論じていることにびっくりしたのは私1人ではないと思います。大分弁護団もまったく予想していなかったようで、急遽、火山の可能性も原発停止を求める根拠に追加するとのことです。おそらく、他の裁判所で同じような考え方をとる裁判官はいないのではないでしょうか。宮崎慶次大阪大名誉教授(原子力工学)も、「破局的な噴火が起きれば、原発の有無に関係なく西日本は壊滅状態になる。火山が林立する西日本でそのような自体まで想定するのは論理の飛躍・・・」と言っています。
このような、我々の予期に反したような結論を出す裁判官がいる場合、その裁判官自身について若干検討する必要があります。今回の野々上裁判官は、現在64歳で12月20日に裁判官を定年退官するということです。おそらく退官後は弁護士になるのではないでしょうか。したがって、出世など考える必要はありません。自分の思うとおりの結論を出しても構わない(もともと裁判官は皆独立しているので、それが当然と言えば当然ですが・・・)。野々上裁判官の頭の中を分析すると、「何とか原発を止めたい。そのためには規制基準が合理的でないというのが筋であるが、その点については専門家が出した意見を前に、裁判官の自分がその専門家の意見を非合理であると論破するのは自信がない。しかしながら、火山についてはさほど四国電力側も強く反論をしていないので、火山を根拠に差し止めを認めよう。」というところではないかと思います。「来年の9月30日」までという期限付きなのが、野々上裁判長の自信のなさを表していると言ってもいいでしょう。
確かに、「伊方原発を停止する」という結論は認めるにせよ、およそ他の人が支持しないような論拠でこれを認め、逆に、「規制基準など他の点はすべて不合理ではない」と判断したことの方が、むしろ住民側に重大な悪影響を与えてしまうのではないかと危惧しています。住民側も手放しで喜べるような決定ではないだろうと思います。大分県民にとっても大きく影響するだけに、この裁判は大分訴訟も含め目が離せないところです。
(注①)仮処分・・・・・・・・債権者(紛争の当事者の一方で、他方に対して主張できる権利を持っている人)からの
申立により、民事保全法にもとづいて裁判所が決定する暫定的処置。
法廷での証人尋問は、通常、行われない。
(注②)即時抗告審・・・地方裁判所の仮処分決定で負けた側が高等裁判所でもう一度判断を求める場合の
高等裁判所での審理のこと。
今年の最後に、堅苦しい「弁護士の書斎から」になってしまいました。来年もいろいろ問題は発生するでしょうが、お互い、力を出し知恵を出し合って乗り越えて行きたいと思います。
今年1年間本当にお世話になりました。来年も皆様に良い年が訪れますよう祈念して、本年度の最後の「弁護士の書斎から」にしたいと思います。それでは良いお年を。