第103回 実体験者の談
- 2017年4月7日
実体験者の談
栃木県那須町のスキー場で雪上訓練をしていた同県内の7つの高校の登山部員と引率教員の計48人が雪崩(なだれ)に巻き込まれ、男子高校生7名と男性教員1名の合計8名が死亡するという痛ましい事故が起こりました。現在、栃木県警は業務上過失致死傷容疑を視野に捜査中です。
ところで、今から20年以上前、雪崩事故に遭った人の依頼で旅行会社相手に裁判をしたことがあります。私の依頼者(70歳)の男性がヒマラヤのトレッキングツアーに参加しました。11月のことです。11月のヒマラヤは1年の中で最も気候が安定しているのですが、その年は異常気象だったため豪雪となり、多くの場所で雪崩が発生し、何十人も亡くなったようです。私自身、これまで雪崩など経験したことがありませんし、ほとんどの人がそうだと思います。しかし、実際に体験した人の話は強烈です。私の依頼者が遭った雪崩も今回と同じように「(乾雪)表層雪崩」でした。雪崩が発生すると、人間が雪と一緒に押し流されるので、石とか岩にぶつかって即死することが多いようです。また、雪の重みに押しつぶされて圧死したり、窒息死することも多いようです。仮に死亡に至らずとも、雪の中に埋もれたとき、自分の体が上を向いているか下を向いているかまったくわかりません。かろうじて手が動いたとしても、下に向かって掘り進み、段々、力尽きて死に至ることが多いようです。私の依頼者の場合は、自分の上に乗っかっていた雪がさほど多くなく、まだ手も動いたため、上の方が明るいと感じたので上の方に掘って行ったら雪から抜け出られ、九死に一生を得たとのことでした。自分が助かろうと思って手を動かし進んで行ったとしても、それが下の方に向かっているとすれば恐ろしい話です。ツアーの参加者達が食事をしている最中に雪崩が発生して飲み込まれたので、「雪崩が来るような場所で食事を取らせた旅行会社が悪い。」ということで裁判を起こしたのですが、判決は「請求棄却」でした。「そのような危険なツアーに参加するのは自己責任だ。」というのが裁判官の考えでした。この事件は、控訴せず、1審判決が確定して終わりました。
もう一つ(但し、食事中の人は読まない方がいいかもしれません)。私の学生時代の先輩、早稲田の文学部(夜間)に通っていました。愛媛県出身。地元に大きなダムがあり、自殺の名所になっていたとのことです。そこで数年に一度、自殺者の探索が行われます。何人かのダイバーが湖底に潜って自殺者の引き揚げを行うとのこと。私の先輩の友人もダイバーとして参加したことがあります。湖底は水が淀んでいるため視界が効きません。10㎝20㎝の距離まで近づいて、ようやく、それが岩であるのか、樹木であるのか、人間であるのかがわかります。人間だからといって、手や足などを持って引き揚げようとしてはなりません。何故なら、皮膚がズルッと剥けるからです。そろーっと両手を死体の下に差し入れて、ゆっくりゆっくり上の方に持ち上げる必要があります。その際、必ず起こる現象があるとのことです。
(心臓の悪い人はここから先は読まないで下さい)。
ゆっくりゆっくり死体を持ち上げようとすると、まず、顔面の目のところからニヨキっとあるものが出てくるそうです。初めて死体を引き揚げる人は、まず、それで腰を抜かすそうです。ニョキっと出てくるのは、ウ・ナ・ギ。ウナギは、先ず死体の目玉を食べ、それから頭の中に入ってやわらかい脳みそを食べ、そして頭蓋骨を住処(すみか)とするとのことです。急に揺さぶられて、「何が起こったのか。」、とびっくりしてニョキっと頭を出してくるのです。こんなこと、実際に体験した人でないとわかりません。実体験者の談は貴重です。
人が亡くなることは非常に悲しい。しかし、亡くなった人の遺体がきれいな形で残っていればまだしも、それが無惨な姿になっている場合、言葉が出ません。私が司法修習生の頃、都町のビルの谷間に死体が発見されたということで、検察庁の検事と一緒に現場に行ってみましたが、顔が半分潰れていました。女性の部屋に忍び込もうとしてビルから落ちたということでした。それはそれで良からぬことなのですが、やはり、亡くなった人にも家族がいるでしょうし、顔が半分潰れた状態では家族の方々があまりにも可哀想です。このようなことから遺体を修復するエンバーミング(注①)という技術が重要になってくるのではないでしょうか。
今、国会は、森友学園問題で劇場化しておりますが、敢えて今回は少しエグいことを書かせていただきました。気分を悪くさせてしまってごめんなさい。
(注①)エンバーミング・・・遺体に防腐処理を施す技術。長期保存や感染症の防止のほか、葬儀に際して、
傷を修正したり生前の面影を復元したりする目的でも行われている。