第100回   カジノ法成立

第100回   カジノ法成立
                                                         - 2017年1月6日

カジノ法成立
 福岡に筑豊地区があります。炭坑で有名ですが、五木寛之の「青春の門」や労災補償金や生命保険金を狙った「指狩り族」などでも記憶に残る地域です。もう一つ、ここで有名なのは「タブ」(注①)という賭博です。胴元が何軒かあり、代々、裏の家業として行ってきました。今から20年以上前の話ですが、胴元の主人が大分県警に逮捕され(身柄は佐伯署に勾留)、私が弁護したことがあります。罪名は「賭博場開張罪」(注②)。(福岡の案件を大分県警が摘発することは珍しいことですが、確か、日田か天瀬の暴力団員が大分県警にチンコロ(注③)したので大分県警が動いたと記憶しています。)タブのお客さんは、筑豊周辺の会社の社長、お医者さん、議員の方々、暴力団の幹部の方々が多かったようで(弁護士はいませんでした)。全員、(単純)賭博罪(注④)か常習賭博罪(注⑤)で摘発されたと思います。タブの詳しいルールは忘れましたが、最終的には胴元が儲ける仕組みになっていたと思います。賭博というのは最終的に胴元(親)が勝つことになる、逆から言えば、客(子)は損をする仕組みになっているということを痛感しました。
 国会で「カジノを含む統合型リゾート施設(IR)整備推進法案」(いわゆるカジノ法案)が成立しました。賛成派は①いわゆるインバウンド(外国人観光客)が増え景気浮揚になる、②投資が増え、雇用の拡大につながると主張し、反対派は①ギャンブル依存症が増える、②マネーロンダリング(資金洗浄)の舞台となる可能性がある、③暴力団や外国人犯罪組織などが関与してくる可能性がある、④周辺地域の治安や風俗環境が悪化するなどと主張しており、世論が二分されていることは周知のとおりです。いずれの主張も一長一短ですが、国家の「品格」という観点から考えた場合、いかがなものでしょうか。「ギャンブルで外国人観光客を呼び込む。」というのは、何となく品がないような気がします。もっとも、「そもそも日本に国家の品格などない。」とのご意見も聞こえてきそうですが・・・。
 民間人が賭博場を開張すれば3月以上5年以下の懲役なのに、国が開張すれば無罪放免というのも釈然としません。ギャンブル依存症の恐れがある日本人が536万人もいるという厚生労働省の推計も気になります。確かに、開店前からパチンコ店の入り口の前に並んでいる人々をよく目にします。常連さんが沢山いるでしょうし、中には、依存症の方もいるのでしょう。
数年前、ある会社の慰安旅行でマカオに行ったとき、カジノで遊びました。私は1~2万円だけ損をして、1~2時間で引き上げたのですが、熊本から来ていた某会社の社長は、「翌朝5時までカジノにおり、10万円以上負けた。」と言っていました(本当は20万円ぐらい負けたようです・・・)。カジノにとってはとてもいいお客様だったようです。この「客の負けた金」で国が儲けるというのはいかがなものでしょうか。
 いずれにしても、もう少し慎重な議論が必要だったような気がします。

   注①「タブ」・・・数人が中央のざるやスリ鉢の周りに車座に座り、サイコロ3個を使って行う。
            親と子が自分の前にそれぞれ金を張り、親がサイコロをざる(スリ鉢)に投げ入れ、
            勝敗に応じて親と子の間で金のやりとりがされる。
   注②「賭博場開張罪」・・・刑法第186条2項。3月以上5年以下の懲役。
   注③「チンコロ」・・・「密告」のヤクザ用語。
   注④「(単純)賭博罪」・・・刑法第185条。50万円以下の罰金又は科料。
   注⑤「常習賭博罪」・・・刑法第186条1項。3年以下の懲役。