第69回  引退の時期

第68回  引退の時期
                                                         - 2014年3月7日

引退の時期
 いつ引退するか。定年があれば楽ですが、それがない立場の人の場合、自らの引き際をどう決めるかは、極めて難しい問題です。オーナー企業の社長や各種団体の長、あるいは地方公共団体の首長など、引き際の拙さゆえに晩節を汚す例は枚挙にいとまがありません。長いことその地位に君臨すればするほど、己を客観視できなくなり、かつ、意見を言える部下もいなくなるため、結果的に「裸の王様」になってしまうのかもしれません。豊臣秀吉などはその典型的な例でしょう。7期も知事を務めた某県の知事なども記憶に新しいところです。
 浅田次郎の「蒼穹(そうきゅう)の昴(すばる)」の中で、清王朝の末期、宮廷随一の学者で光緒帝の師である楊貴楨(架空の人物)が西太后に引退を求める場面があります。西太后はまだ光緒帝に権力を委譲したくなかったのですが、楊が「権力を委譲しても光緒帝の親政がうまく行かなければ、民は西太后様の力がいかに偉大であったかを思い知るでしょう。逆に光緒帝の親政がうまく行けば、同帝の能力を見越して早く引退した西太后様のご英断を褒め讃えるでしょう。」と言ったため、いったんは退位することを決意したのです。仲々、うまいことを言うものだと感心しました(もっとも、西太后は、その後、光緒帝を幽閉し(「戊戌の政変」)、再び権力の座に返り咲いて3度目の「垂簾聴政」を開始し、最終的に光緒帝を自殺に追いやります(もっとも、毒殺説が通説のようです)が・・・)。
  私自身、ある団体で幹事をしていた時、30年以上会長として君臨した人に引退を求めたことがあります。仲々、自ら退くことにご納得いただけませんでしたが、「最高顧問に就任していただく。しかも、他の人は誰も最高顧問にはさせない。」という「条件付き」でご勇退いただきました。そして、その際、「会長は一期4年。二期まで。」という規則も新たに作りました。
  ご勇退していただくために部下があれこれを知恵や策をめぐらせねばならない状況を作ってしまうのも立派な「老害」と言えるでしょう。「あの人はまだ(・・)いるの?」などと陰口を叩かれないように、己を客観視できるうちに潔く身を引くべきでしょう。
 引き際が拙ければ、その人の何十年にも亘る功績も吹き飛んで、「権力にしがみついたご老人であった。」との評価に堕してしまうのが世の常であるということを肝に銘じておくべきでしょう。「他山の石」とすべきです。