知らない間に保証人になった場合

私は、弟から、私と弟とで相続した不動産を一緒に売却しようと言われたため、実印と印鑑証明書を渡しました。ところが、弟は、勝手にこれらを使って、私を弟の借金の保証人にしてしまいました。私に保証人としての責任はあるのでしょうか?

あなたは、貸主との間で、自ら保証契約を締結したわけではありませんし、また、弟さんに対して保証契約を締結する代理権を与えたわけでもありません。そのため、原則としてあなたには保証人としての責任はありません。しかし、表見代理が成立する場合には、例外的に保証人としての責任を負うことになります。
表見代理とは、代理権のない者が代理行為をした場合のうち、その者と代理行為をした者との間に一定の関係があり、相手方がその者を本人の正当な代理人であると何ら落ち度なく信じて取引に応じた場合には、代理権がないにもかかわらず、その代理行為を有効とするという制度です。
言葉にすると難しいのですが、本件に即して言うならば、代理権のない弟さんがあなたの代理人として保証契約を締結した場合であって、あなたと弟さんとの間に「一定の関係」があり、「貸主が弟さんをあなたの正当な代理人と何ら落ち度なく信じて保証契約を締結した場合」には、弟さんに代理権がないにもかかわらず、あなたが保証人としての責任を負うということです。
あなたの場合、弟さんに対して不動産の売却の代理権を与えていたことから、あなたと弟さんとの間には「一定の関係」がありそうです。
そうなると、表見代理が成立してあなたが保証人として責任を負うかどうかは、「貸主が弟さんをあなたの正当な代理人と何ら落ち度なく信じたのか」によります。
この点は、個別具体的な事案ごとに様々な事情を考慮して判断するため、一概に結論を述べることはできません。
しかし、一般的に実印や印鑑証明書を使う場面は重要な取引を行うケースである以上、あなたの実印と印鑑証明書を確認できた場合、あなたが弟さんに対して保証契約締結の代理権を与えたと貸主が信じることに重大な落ち度まではないでしょう。
そのため、あなたが弟さんに対して実印と印鑑証明書を渡したとの事実は、あなたに表見代理人としての責任を認める方向の要素として考慮されると思われます。
 なお、このように実印や印鑑証明書は、本人の真意に基づいた取引であることを対外的に表明する重要な手段である以上、少なくとも今後はたとえ兄弟間であろうとも安易にこれらを渡すことは控えるべきです。