保証人になる際の注意点

私の甥が今年の3月に大学を卒業し、新社会人として大手メーカーに入社することになりましたが、会社から身元保証書を提出するようにと求められたらしく、私の方に身元保証人となってくれるよう頼みにきました。私が身元保証人となった場合には、どのような法的責任を負うことになるのでしょうか。
(1)身元保証契約とは、従業員の行為により使用者が損害を受けた場合にこれを身元保証人が賠償することを約束する旨の契約であり、使用者と身元保証人との間で締結されます。 身元保証人が責任を負う具体的なケースの一例としては、集金係の任に就いていた従業員が集金した金銭を使用者に手渡さず、自ら費消して横領してしまった場合が考えられるでしょう。   新たな門出を迎えた甥っ子に頼まれ、ついつい身元保証人となってしまうお気持ちは分かりますが、現実問題として身元保証人は法的責任を負担するのですから、身元保証の内容を十分に熟知した上で身元保証契約書に判を押す必要があります。 (2)身元保証契約は、その実態に鑑みると、義理・人情に基づいて家族や親族がやむを得ず締結するものです。にもかかわらず、身元保証契約を締結したという一点だけをとって、全面的に身元保証人に損害賠償責任を負わせることは相応しくありません。そこで、「身元保証ニ関スル法律」は、以下のとおり、身元保証人の責任の範囲を限定しています。  まず、身元保証契約の存続期間は、期間の定めがない場合には原則3年とされ(同法1条)、期間の定めがあった場合でも5年を超えることはできない(同法2条)と定められています。また、契約を更新することはできますが、自働更新の約定は無効とされていることから、実際には5年を超えて勤務している従業員が使用者に損害を与えたとしても、身元保証の期間が満了しており、責任追及を受けなくて済むことはあるでしょう。  また、使用者は、従業員に業務上不適当の事由があって身元保証人に責任を生ずるおそれが生じた場合や、従業員の担当業務や勤務地を変更し、そのため保証人の責任が重くなり、または監督が困難になる場合(たとえば、従業員の仕事内容が法務から経理に業務が変わった、転勤で遠隔地に長期間行くことになった等)は、その旨を遅滞なく身元保証人に通知しなくてはなりません(同法3条)。身元保証人は、この通知を受けたときや、通知がなくともその事実を知ったときには、将来に向けて身元保証契約を解除することができます(同4条)。 (3)従業員が身元保証契約の有効な存続期間中に横領等の不法行為をした場合、身元保証人は使用者に生じた損害につき賠償する責任を負います。しかし、その際も、身元保証人は使用者の被った損害の全額を賠償する責任を負うのではなく、法律によってその責任が軽減されています。  身元保証ニ関スル法律第5条によると、身元保証人の責任は、従業員の監督に関する使用者の過失の有無、身元保証人が保証をするに至った理由、身元保証人が保証をするときに用いた注意の程度、従業員の担当業務などの変化、その他一切の事情を総合的に勘案して決定されます。  保証人の責任軽減にあたり、一番影響を与える事項は、監督上の過失やその程度です。使用者の監督に不備があった場合、身元保証人の損害賠償義務は大幅に減額されることになります。たとえば、使用者が不祥事を発見することが可能となった時点以降の損害については、使用者が十分に監督をしていれば発生を防げたとして、身元保証人の責任を免除した例もあります。また、親族・親戚関係から断り切れずに身元保証を引き受けた等の事情も、身元保証人の責任軽減の一要素として考慮されます。 (4)このように身元保証人の責任は法律により軽減されていますが、その責任がゼロになるということはまずありません。あくまで法的責任を負う以上、甥っ子さんに対し、勤務先はどのような業種の会社であり、担当する業務は何なのか、転勤の可能性や配置換えの可能性等について、十分な情報収集をしたうえで、身元保証人になるか否かを決めていただきたいと思います。