第187回  「個人と組織」

民法(家族法)の改正案が国会を通過しました。その中には、これまで離婚後は単独親権であったものが、夫婦の協議で共同親権にできたり、「協議が整わない場合であっても裁判所は共同親権を命ずることができる」という改正部分も含まれているのです。

離婚する夫婦が協議で共同親権を選択する場合にまで反対する必要はありません。しかし、離婚する2人のうち、1人あるいは2人とも「共同はいや!」と言っているのに、これを無理やり共同親権を命ずることには反対です。余りにも弊害が多いからです。

賛成する人々は、「夫婦2人の子どもであるから離婚しても2人が親権を持つべきである。」という理想を言います。この理想には誰も異を唱えません。しかし、私は理想よりも現実の弊害の方が大きいと考えるのです。(詳しくは、「弁護士の書斎から」第181回「共同親権か単独親権か」に記述しているので、そちらへ譲ります。)

国会の中でも、私は基本的に反対の立場から意見を言わせてもらいました。

したがって、最後の最後までこの改正案に対して反対をしようかと迷っていました。しかし、最終的な採決では賛成しました。

その理由は次のとおりです。

第1に、今回の改正は、共同親権を原則とするものではなく、あくまでも共同親権を選択することができるというものであり、共同親権、単独親権のどちらが原則でどちらが例外というものではないこと。特に、DVや急迫の事情がある場合には必ず単独親権になるのです。

第2に、本改正案には多岐に亘る改正箇所があり、上記点以外は特に問題はありません。よって、総合的に考えると子どもの利益に資するのではないかと考えられること。

第3に、離婚する片一方の親が「共同親権はいや!」と言っている場合に裁判所が共同親権を命ずることはさほど多くないのではないか、と考えられること。

したがって、「共同親権は絶対にいや!」と主張し続ければ、おそらく単独親権になると思われます。

第4に、組織(自民党)に所属する自分の立場に照らすと、反対票を投じるのは難しいと考えられること。

自民党に所属し、法務委員会の理事の立場である以上、自民党が決め、党議拘束までかけられている法案に反対するのなら、離党してからやるのが筋であると考えました。

弁護士である自分良心と組織の人としての良心が大きくぶつかったところでした。

第5に、反対しても無駄になることです。

政党としては共産党以外の政党が賛成し、しかも衆議院で可決されている以上、これがひっくり返ることは理論的にありません。無駄な反対票(死票)になってしまうのです。

以上のように、組織の人の良心を優先させ、採決での賛成になったのです。

この法案が通ったことで、離婚後の元夫婦間の争いはおそらく増えるでしょう。

仮に共同親権になると、①子どもの名字の変更、②同居親の再婚相手との養子縁組、③子どもの銀行口座の開設、④病院の治療、⑤転居、留学、⑥進路の決定など、同居していない別居親の承諾が必要となります。離婚して別れた相手からすんなりと承諾がとれるとは思えません。そして、両方の意見が一致しないときは裁判所に決めてもらうことになります。金と時間がかかります。

それらの実害よりも、「子どもは2人で育てるべし。」という理念が優先した今回の法律改正でした。

個人対組織。この桎梏は政治家である以上、今後も続いていくのでしょう。