第1回 弁護士のひとり言

第1回 弁護士のひとり言                                                                                                             -2007年10月19日(金) 弁護士のひとり言  平成12年4月、民事再生法が施行されました。それまで存在していた和議法の弊害が指摘されていたため、それを回避する目的もあったと言われています。不渡手形を出す直前の会社が、とりあえず和議の申立をして、不渡の発生を止め延命を図りながら、他方において財産を適当に処分し、気が付いた時には財産がなくなっているという事態が、「和議の弊害」と指摘されていました。  そのため、東京地裁などは、和議申立と同時に、「債権者の4分の3の同意書を出せ」などという無理難題を、我々申立代理人に押しつけていました。そのようなことから、和議法が廃止され、民事再生法が施行されることになったのです。  しかし、果たして、民事再生法はそれ程有益な法律でしょうか。  和議の場合、和議が通ってしまえば誰も監督しなくなり、後は会社がなし崩し的に潰れていったり、和議条件にも定められた弁済をしない等が多々ありました。私が手掛けた事件でも、和議認可後、約束通りの弁済をしないため、債権者からこっぴどく叱られたこともあります。  「破産なら5%しか配当できませんよ。しかし、和議なら30%を5年分割で払えますよ。」という和議条件を提示すれば、大概の債権者は同意してくれます。和議がほぼ100%に近い確立で成立していたのは、そのような事情からです。  しかし、仮に和議が認可されたとしてもそのような倒産した会社に仕事を発注していたと思うでしょうか?  否です。他の会社に客は流れていきます。なし崩し的に会社が潰れていく理由は、そこにあるのです。このことは、民事再生法ができても全く同じ。  確かに歴史のある会社などの場合、会社をつぶしてしまうのは忍びないため、何とか存続を図りたいと思うのは人情として理解できます。しかし、例えば、他の同業他社と同じような技術力しかない建築業者が民事再生の申立をして、仮に認可されたとしても、そのような会社に仕事を発注したいと思う依頼人がそれ程たくさんいるでしょうか。別に、そのような潰れかかった会社に頼まなくても、似たような会社は星の数程あるのですから、経営状態の健全な会社に頼むのが一般的です。仮に、民事再生が認可されたとしても、再生条件が履行できず、なし崩し的に倒産してしまう可能性が極めて高いと言わざるを得ません。  要は、民事再生に向いている業種と向いていない業種があるということを肝に銘じるべきでしょう。最も向いている業種はゴルフ場だと思います。ゴルフ場に対する債権の大半は、預託金返還債権ですが、これは担保も何もついていない単なる一般債権です。しかも、大半の債権者が当該ゴルフクラブの会員であり会員券の返還を求めるよりも、ゴルフをプレーすることを望んでおります。  したがって、少々返還条件が悪くなったとしても、プレーさえできればいいということで、客が来なくなるという事はあまり考えられません。  あるいは、パチンコ店がパチンコ台を大解放し、大いにお客さんを楽しませれば、お客が減ることはありません。その会社が民事再生を出したとか出さないとかお客さんには関係のないことです。  メーカーであれば、そのメーカーしか持っていないような技能を持っていることや、そのメーカーを助けたいと思っているスポンサーがいること等が、その会社が立ち直る必須の条件でしょう。  ところが、建設関連業種は、残念ながら民事再生には適さない業種と言わなければなりません。  弁護士である以上、依頼者から相談を受け、何とか再建の道を探りたいというのであれば、民事再生の選択も視野に入れなければなりません。しかし、果たして、それで本当に会社が立ち直るのかどうかを見極めた上で手段の選択をしなければならないと思うのです。和議の弊害と同じ弊害が民事再生の場合にも起こるのです。民事再生が認可された企業につき、業種に5年生存率、10年生存率、20年生存率等の追跡調査をしてもらいたい。  民事再生の申立をする場合には多額の費用(弁護士費用、及び、裁判所への予納金)がかかるのも、申立の大きなネックとなっております。近時は、整理回収機構による再生支援、経済産業省による再生支援等、他機関による再生支援の手続も整備されています。そのような手続の方が費用もかからず、スタッフも多い等という利点もあり、民事再生法は早くも存亡の危機状態にあるのではないでしょうか。