破産について
どうしても今の収入では借金を返済できないので、破産をしようと考えています。仮に、破産の申立てをした場合、今後の生活はどうなるのでしょうか。
破産をした場合、すべての財産を失ってしまうと考えている方が多いかと思います。
しかし、破産法の制度自体が破産者の経済的再起を目的の一つにしていることからも明らかなように、全ての財産を失うわけではありません。
例えば、破産法上、自由財産というものがあります。自由財産とは、破産者が有していた財産の中で破産財団に属せず、破産者が自由に管理処分することができる財産のことをいいます。要は、破産したとしても破産者が財産をもっていられるということです。
破産法上、当然に自由財産となる財産(これを本来的自由財産といいます。)としては次のものがあります。
①現金99万円
②民事執行法上の差押禁止動産(ア 生活に欠くことができない衣服、寝具、家具、台所用品、
畳、建具 イ 1ヶ月間の生活に必要な食料・燃料)
③民事執行法上の差押禁止債権(給料・退職手当(原則4分の3相当部分))
④特別法上の差押禁止債権(生活保護受給権、老齢年金受給権)
などが、本来的自由財産として、破産する際に特別な申立をしなくとも、自由財産として破産者が管理処分できることになります。
その他に財産として持てるものはあるのですか?
先程の本来的自由財産とは別に、破産法では、自由財産の拡張という制度を設けています。
破産者が経済的再生を果たすためには、本来的自由財産のみでは不十分な場合があります。
そこで、自由財産拡張の申立という制度を利用して、その他の財産についても裁判所が認める場合には、破産者自身が管理処分できることになります。
自由財産の拡張として認められるか否かは、破産者の生活状況、破産者の収入の見込み、破産者が有している財産の種類等を総合的に見て、裁判所が判断します。
実際に、自由財産拡張の申立をするのは、預貯金、自動車などのケースが一般的には多い部類だと思います。
以上のように、破産をする場合でも最低限生活を維持する上で必要な物まで何もかも失ってしまうということはないのです。
会社の倒産について
「私は、土木建設会社を経営しています。今月月末に回ってくる手形の支払いができません。どのようにすれば良いのでしょうか。」
自社の振出した手形を支払えない場合(落とせない場合)には、不渡り手形を出すことになります。現在の銀行との手形取引約定では、不渡り手形を2回出した場合、銀行取引が出来なくなってしまいます。したがって、2回不渡り手形を出すと銀行が取引をしてくれなくなるため、事実上倒産することになります。
しかし、1回であれば、まだ銀行取引は停止にはなりません。しかし、不渡り手形を1回でも出せば、その情報は同業者や銀行等に瞬時に知れ渡りますので、会社の信用が失墜し、事実上、これ以上営業を続けることは困難になるでしょう。
「それでは、是が非でも不渡りを回避すべきなのでしょうか。」
この見極めが一番難しいところです。
例えば、今月末の手形を何とか落としたとしても、来月の手形を落とす目処がなければ、今月の手形を落とす実益はありません。
結局、最終的に不渡りを出すことになってしまうからです。
したがって、今後、継続的に支払い資金を捻出するだけの見込みがあるかどうかを検討しなければならないでしょう。
今後、継続的に手形を落とすことが難しい場合は、どのようにすれば良いのでしょうか。
判断する場合、会社を辞めるか、存続するのかということをまず検討します。会社を存続する目処がある場合(例えば、スポンサーが付くとか、数ヵ月後には資金繰りが良くなるとか、素晴らしい技術力を持っているとか)には、会社を生き延びらせる方向で考えることも可能です。その場合には、民事再生や再生支援協議会に支援の申立を行って私的整理をすることなどが考えられます。
民事再生とは、裁判所に民事再生の申立を行い、債権者の多数の同意を得て、債権の大幅なカットをしてもらい、残りを分割払いにしていくという方法です。
会社の経営者は、なるべく会社を潰したくないと考えるのが一般的です。何とか民事再生か何かで再建したいという気持ちは分かります。しかし、土木建設会社の場合は、基本的に民事再生に馴染まないと考えられます。なぜなら、土木建設会社は同業者が多数存在するため、特別に他社にはない技術力がない限り、下請け業者は離れていき、受注も見込めなくなるからです。
また、再生支援協議会による私的整理は、銀行債務をカットしてもらうことはできますが、通常の手形債務等は対象外となるので、これも難しいでしょう。
「会社を整理する方向ではどのような手続きがありますか。」
まず、法的手続きとすれば、自己破産の申立があります。
ただ、自己破産の申立をする場合、弁護士費用や、裁判所に納める予納金が必要となります。また、会社の代表者は個人保証している場合が多いので、代表者も一緒に破産した方が良いでしょう。
したがって、早期に、会社再建の道を探るのか、整理するのかを検討した上で、計画を立てる必要があります。場当たり的な処理をしていると、破産申立費用も調達できなくなり、ついには夜逃げしかないという状況になりかねません。
「会社再建の目処がないので破産の申立をしたいのですが、現在、会社にある金目のものを売却し、それを売ったお金で、自分の知人に対する借入金の返済に充てることは問題ないでしょうか。」
債務超過や支払不能に陥った状態の債務者が、特定の債権者だけを優遇するために行う法律行為は禁止されています。破産とは、全ての債権者を平等に扱うのが法の目的です。
したがって、特定の債権者だけに優先的に弁済をした場合、後日、破産管財人からその行為を否認され、弁済を受けた債権者に対し、そのお金を戻せという請求が為されることになるでしょう。
「会社を破産させる場合の心構えについて、教えて下さい。」
会社の経営が行き詰る理由は、千差万別です。しかし、いずれの理由であれ、やりっ放しで逃げるというのが最悪です。会社経営者の最後の責任として、きちんとした形で法的整理をし、債権者に、できる範囲内でお返しするべきでしょう。当然、難しい法律問題がありますので、早急に弁護士に相談する必要があります。その中で、最良の方法を選択すべきでしょう。
従業員の雇用問題、債権の問題、税金の問題、仕掛かり工事の問題、在庫商品の問題等々、会社を破産させるにあたっては、解決しなければならない多くの問題が山積しています。これらを、社長が一人で解決することは、到底不可能です。会社の経営が行き詰ったと考えられる場合、手形の決済が困難と考えられる場合、銀行がこれ以上融資をしてくれず、貸しはがしを迫っていると思われる場合など、早急に弁護士に相談して下さい。
人間は、最後の引き際が大切といいます。会社経営においても、最後の幕の引き方を間違わないようにしましょう。