相続問題
親族が交通事故で死亡したのですが、遺産分割のことで揉めています。故人が生前に代々引き継いで管理してきたお墓や仏壇などの祭具、死亡退職金、生命保険、ゴルフ会員権、借家権などの財産は相続の対象になるのでしょうか?
死亡によって相続が開始すると、一部の例外を除いて、被相続人に帰属していた一切の権利義務が相続の対象となります。ですから、土地や建物などの不動産や預貯金などのプラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産も相続されます。なお、交通事故死とのことですが、事故で死亡した被相続人の損害賠償請求権(慰謝料など)は相続財産に含まれます。
次に、相続の対象にならない財産についてお話しします。
お墓、仏壇仏具、家系図、神棚などのいわゆる「祭祀財産」は相続の対象にはならず、相続とは別のルールに従って祭祀主宰者に承継されます。そのルールですが、まずは遺言などの「被相続人の指定」に従い、指定がない場合は「慣習」により、慣習が明確でない場合には、「家庭裁判所の審判」で決定されます。(民法897条参照)。遺体や遺骨なども、祭祀主宰者が管理することになります。
また、被相続人の個人の人格、才能、地位と密接に結びついた権利(これを一身専属権といいます)についても、相続の対象からは除外されます。
具体的には、雇用契約による労働債務、生活保護受給権、恩給受給権利、公営住宅の使用権などです。また、使用貸借契約上の貸主としての地位(タダで物を借りている場合)も一身専属権として相続されませんから、故人が有していた「借家権」が使用借権と賃借権(賃料を払って借りている場合)どちらであったのかは大事ですね。
ゴルフ会員権もある意味で一身専属的な権利ですが、ゴルフ会員権そのものは相続されないけれども、会員契約上の地位(理事会の承認を得ることを条件として会員となることができる地位)は相続され得るというのが判例の見解です。
死亡退職金は、法律や会社の就業規則などで決められた「受給権者」固有の権利ですから、相続の対象にはなりませんし、被相続人が生前に掛けていた生命保険も受取人固有の財産ですから、相続の対象にはなりません。ただし、受取人が被相続人自身となっている場合には、相続財産になります。
私には、夫と子どもが1人いますが、夫は、自分が気に入らないことがあるとすぐに私や子どもに暴言を吐き、暴力を振るいます。私の遺産としては、預貯金と土地がありますが、夫にはやらずに、子どもにだけ残すようにすることはできないでしょうか。
法律上、被相続人(相談者)の生前に、相続人に相続放棄をさせることはできません。そこで、とり得る方法としては、子どもに「遺産を全部相続させる」との遺言書を作成し、夫に家庭裁判所に対して遺留分の放棄の手続を取らせることが考えられます。しかし、夫が遺留分放棄の手続を取ることは考えにくいので、この方法では、あなたの希望どおりに相続の方法をとることは難しいでしょう。
・相続人の廃除
民法第892条は、「遺留分を有する推定相続人(相続が開始した場合に相続人となるべき者をいう。以下同じ。)が、被相続人に対して虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき、又は推定相続人にその他の著しい非行があったときは、被相続人は、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することができる。」と規定しています。
廃除とは、被相続人が推定相続人に相続させることを欲せず、かつ欲しないことが一般の法感情から見て妥当とされるような事情がある場合、被相続人の意思により、遺留分を有する推定相続人の遺留分を否定して完全に相続権を剥奪できるようにした制度です。
廃除できる場合とは、相続人が、被相続人に対して虐待をし、もしくはこれに重大な侮辱を加えたとき、または著しい非行があったときとされています。
他方で、虐待、侮辱、非行があった場合でも、それが被相続人の側にも責任があるとされる場合や、そのような行為が一時的なものであったり、重大な侮辱にあたらないとされる場合には、廃除は認められません。
・廃除の手続
①生前の廃除の申立
被相続人の生前に相続人を廃除する場合は、家庭裁判所に廃除の調停または審判の申し立てをしなければなりません。
②遺言による廃除
被相続人は遺言によっても推定相続人の廃除を求めることができます。この場合は、遺言執行者が家庭裁判所に廃除の請求をすることになります。
・廃除の効果
家庭裁判所の廃除の審判または調停の成立によって、廃除を求められた推定相続人は、その被相続人との関係で相続資格を失います。もっとも、廃除の効果は、相対的なものなので、夫はあなたから廃除をされても他の者との関係で相続権を失うわけではありません。また、相続権を失うのは、廃除された者だけですので、その者の子は代襲相続人として被相続人の遺産を継承します。
私は夫と30年前に婚姻し、1人の子どもを授かり幸せな家庭を築いてきましたが、最愛の夫が先月末に亡くなりました。死亡後、夫が行ってきた個人事業が失敗しており、5千万円の借金が残っていることが発覚しました。私と子どもは、夫から生前中にこの事実を聞かされておらず、知り合いに相談したら、相続人として夫の残した借金を支払わなければいけないと言われました。
果たしてこれは本当なのでしょうか。仮に本当ならば、夫の借金を引き継がないで済む方法は何かないでしょうか。
被相続人が借金等の返済債務を負って死亡した場合、その返済債務は相続が開始すると当然に分割され、相続人が相続分に応じてこれを引き継ぐことになります。
今回の場合、借金5千万円は、妻であるあなたがその相続分の2分の1にあたる2千5百万円、子どもも同様に2千5百万円の返済債務を引き継ぐことになります。
借金返済のような金銭債務の場合、相続人間での遺産分割を待たず、当然に相続人へと承継されてしまいます。しかし、突然に数千万円の返済債務を負えば、生活が成り立たなくなるでしょう。
そこで民法は、相続人が被相続人の債務の承継を免れるために、相続放棄(民法915条以下)の制度を設けていますので、この制度を利用されてはいかがでしょうか。
相続放棄は、相続人が家庭裁判所に相続放棄の申述をし、この申述が家庭裁判所に受理される方法によって行われます。
相続放棄をすると、被相続人の債務の承継を免れると同時に、被相続人の財産も承継することができなくなります。そして、相続放棄をした相続人は、その相続に関して最初から相続人とならなかったものとみなされます。したがって、仮に第1順位の相続人全員が相続放棄をすると、第2順位の相続人が相続することになります。
本件では、第1順位の相続人であるあなたと子どもが相続放棄をすると、被相続人の直系尊属(夫の両親等)が相続人となり、直系尊属が相続放棄すると(夫の)兄弟姉妹が相続人となります。なお、相続放棄は相続人全員が一度に行う必要はなく、各人の判断で行うことができます。
相続放棄は、相続人が「自己のために相続の開始があったことを知った時」から3ヶ月以内に家庭裁判所に対する申述をしなければなりません。
この「自己のために相続の開始があったことを知った時」とは、一般に相続人が被相続人の死亡の事実に加えて、自己が相続人になった事実を知ったときを指します。
結論として、あなたと子どもは、夫が死亡し自己が相続人となったことを知った時点から3ヶ月以内に、それぞれ家庭裁判所に対して相続放棄の申述をすることで、夫の残した債務の相続を免れることができると思われます。
相続が開始したのですが、相続人の人数が多くて遺産分割の話し合いがまとまりそうにありません。それどころか、相続人と思わしき人物の中には、もう何年も音信不通で一体どこに住んでいるのか分からない人もいます。そもそも相続人全員が集まって話し合いができる状態ではなさそうなのです。
遺産分割は、相続人全員で協議して行うのが原則だとか聞いたことがありますし、遺産分割の裁判をするにしても相続人の居所が分からないようだと一体誰を相手にしてよいものやら。
相続人の中に行方不明者がいるような場合、どうしたら遺産分割について協議が始められるのですか?もしかして、不明者が見つかるまで遺産分割の協議や裁判はいつまでもできないのでしょうか?
相続関係が複雑で相続人が多数存在するような場合は、共同相続人の中に行方不明者がいるケースも珍しくはないでしょう。従来の生活の本拠などを人知れず離れてしまってそう簡単には帰ってくる見込みがないような人のことを法律上「不在者」(民法25条1項)と呼んでいます。
不在者については、不在者財産管理制度という制度があり、利害関係人は、家庭裁判所に対して不在者の相続財産などを管理する財産管理人の選任を請求することができます。あなたのような共同相続人は利害関係人の典型と言えるでしょう。
一定の要件を満たせば家庭裁判所によって不在者財産管理人が選任され、財産管理人は不在者の財産を管理する権限を与えられますので、この財産管理人を相手に遺産分割協議などを行えば良いわけです。
ただし、遺産の分割は不在者の財産を処分してしまう重大な行為ですから、不在者財産管理人が遺産分割の協議を成立させるには、家庭裁判所の許可手続きが必要です。
その他の方法は?
行方不明期間が相当期間に亘る場合には、失踪宣告制度(民法30条)を利用することも考えられます。失踪宣告とは、不在者の生死が「7年間」不明である場合や船舶事故等の災害に遭遇した人の生死が「1年間」不明である場合に、家庭裁判所の宣告により、その不在者を「死んだもの」として扱う制度です。法律上死んだものとして扱われますから、遺産分割協議なども不在者の相続人などを相手に行えばよいわけです。
余談ですがこの間、高崎山のボス猿・ゴルゴが「1ヵ月半」行方不明になり、サルの世界の失踪宣告でボス猿の地位を失いそうという記事を目にしました。専門家によると、猿の世界では、概ね「1ヶ月間」餌場に姿を見せないで行方不明になると、死んだものとみなされていわゆる「相続」が発生するそうです。人間の失踪宣告期間(7年間)に比べると、随分短くて厳しいですね。
私の次男は中学生の頃から非行を繰り返し、30歳になった現在でも定職につかず、私の預金通帳から勝手に預金を引き出してはギャンブルをする毎日です。また、私に対して継続的に暴力を振るってきます。私はこのような次男に財産を相続させたくないのですが、どのような法的手段があるのでしょうか。
次男に相続させないようにするための法的手段としては、次男に対し相続人廃除の手続きをとるか、全財産を次男以外の相続人に相続させる旨の遺言を残す方法が考えられます。ただし後者の場合には、次男から遺留分減殺請求権の行使を受ける可能性があります。
相続人となるべき人物は、被相続人との間に一定の身分関係を有する者に限られます。この身分関係が婚姻や養子縁組に基づく場合には、離婚や離縁によって身分関係を消滅させることで相続人の地位も消滅させることができますが、実親子の関係にあっては、身分関係そのものを消滅させることはできません。そこで、親子関係はそのままにして、相続権だけを剥奪する制度が、相続人廃除の制度です。
相続人廃除は、被相続人が家庭裁判所に申し立てて家庭裁判所の審判を得ることで効力が生じます。相続人を廃除するためには子が親を虐待する等、著しい非行事実が存在することが必要です。
また、相続人廃除は、被相続人が遺言によってすることもできます。その場合には、遺言執行者が家庭裁判所に相続人の廃除を申し立てて審判を受けることになります。
相続人の廃除が認められるためには、被相続人に対する虐待または重大な侮辱、その他の著しい非行と言う廃除事由が必要となります。そして、廃除事由の有無を家庭裁判所が審判を行います。
「虐待」とは、被相続人の心身に苦痛を与えることをいい、「重大な侮辱」とは、被相続人の名誉や自尊心を著しく害することをいいます。「著しい非行」とは、虐待や侮辱と同程度の非行である必要があります。
いずれにしても、廃除は相続人の相続権を剥奪してしまう不利益性の高い行為ですので、現在の社会常識に照らして相当悪質と思われる程度の事由が必要となります。単に、少年時期の一時的の非行や、親の意向に沿わない結婚をしたにすぎない場合には、廃除事由があるとは認められないでしょう。
最初に述べましたが、遺言により全財産を他の相続人に相続させる場合には、次男の相続に対する期待権としての遺留分減殺請求権を行使される可能性があります。遺留分減殺請求権を行使されると、次男に相続させないという目的は達成されません。
この遺言による方法は、遺留分を有しない兄弟姉妹の相続人に対して相続させたくない場合に限って、有効な手段といえます。
長男は母の死後、母が所有、管理していた駐車場を他の相続人の同意を得ずに管理し、駐車場料金を独り占めしています。どのような方法でこれを止めさせることが出来るでしょうか。
長男は母の死後、母が所有、管理していた駐車場を他の相続人の同意を得ずに管理し、駐車場料金を独り占めしています。どのような方法でこれを止めさせることが出来るでしょうか。 1、相続の発生後、遺産分割の協議により分割に関する合意がすぐに達しないことがしばしばあります。その間に相続人の一部の者が遺産を隠匿したり、消費してしまうことは考えられることです。その結果、協議の結果も無駄になりかねません。 そのような事態になることを避けるために、家事審判法では遺産を調停の成立または審判の間まで保全して、財産の滅失・減少などが起こらないようにするため、「調停前の仮の措置」と「審判前の保全処分」という二つの仮処分の制度を設けています。 2、調停前の仮の措置 調停委員会は、調停前に調停のため必要であると認める処分を命ずることが出来る(家事審判規則第133条1項)とされています。しかし、実際にその必要性があるか否かは、当事者から主張されない限り調停委員会は知ることはできません。そのため当事者から申立をして、その必要性を知らせて職権の発動を促す方法により行われています。その疎明資料も、積極的に提出して協力することにより、より適切な措置をとることが出来ます。その措置の内容は法定されてはおらず、調停委員会の裁量に委ねられています。 具体的措置としては、①不動産の処分禁止②不動産の管理人を選任してその管理をさせる③債権、株券等の処分禁止④一定の行為の禁止等が考えられますが、これに限らず保全のために有効と思われる法律的な措置をとることが出来ます。 本件では、調停委員会に駐車場を管理する管理人を選定してもらい、その者に駐車場の集金やその他の管理をやってもらうのが適切かと思われます。家賃の取立につき、第三者の銀行を指定して、銀行員に家賃の取立を命じた先例もあります(福岡家判昭和33年7月14日)。 3、審判前の保全処分 遺産分割の審判の申立や、調停が不調となり審判に移行した場合には、家庭裁判所は仮差押・仮処分・財産管理人の選任などの遺産の保全に必要な処分を命ずることが出来ます(家事審判法15条の3第1項、同規則106条1項)。また、財産管理者の選任は職権でも行われ、この保全命令には執行力や強制力があり、これのない調停前の措置に比べ強力となります。 本件では、財産管理者の選任という保全命令を得て、その者に遺産の管理を委ね、遺産分割の審判が確定するまで、保全しておいた方がよいでしょう。また管理の仕方も命令の中で具体的に定めると、管理者の裁量の余地が少なくなり、後に管理の仕方で争いになる事が避けられるでしょう。 |
昨日、5年前に亡くなった父が知人の借金500万円の連帯保証人になっていたらしく、金融業者から父の相続人である私のもとへ500万円を支払えという内容の請求書が届きました。私は請求書が届くまで父が連帯保証人になっていることを全く知らなかったのですが、お金を支払わなければいけないのでしょうか。ちなみに父の相続人は、私の他に母1人だけですが、母にも請求書が届いています。
あなたの父親が他人の連帯保証人となったまま死亡した場合、基本的に相続人のあなたとお母さんが連帯保証人としての地位を相続します。「連帯保証人としての地位を相続する」とは、あなたとお母さんが知人の連帯保証人としての責任を負うということです。
今回の場合、相続人はあなたとお母さんの2人なので、それぞれ二分の一すなわち250万円ずつの連帯保証債務を負い、法律上は250万円ずつの返済義務を負います。
しかし、相続人が亡き人の負債等を全て負ってしまうのは、何も知らない相続人にとって酷な結果となる場合もあります。
そこで、民法では第915条において相続放棄という制度が認められています。相続放棄とは、相続人が被相続人の財産の一切を相続しないようにする手続のことで、相続放棄するとその相続人は初めから相続人とならなかったものと見なされます(民法939条)。前述の民法915条には、「相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3箇月以内に・・・放棄をしなければならない」と記載されています。したがって、相続人が被相続人が死亡したことを知ってから3ヶ月以内であれば、相続放棄することができます。
今回の場合、あなたとお母さんは5年前に父親の死亡を知っているので、本来は相続放棄をすることができません。
しかし、「3箇月」の期間の始期は、被相続人の死亡を知った時期に加え、具体的に自分が相続人となったことを知った時とされています。そして、相当な理由があれば相続人が相続財産の全部又は一部の存在を認識した時又は通常これを認識しうべき時とされています。そして、今回の場合のように、被相続人死亡後、3ヶ月経過後であっても、その後に初めて被相続人に借金があったことを知ったときには、3ヶ月以内であれば相続放棄が認められるケースがあります。
相続放棄が認められると、相談者は連帯保証人としての責任を負わなくてよいということになりますので、借金を返済する必要はありません。
ただし、必ずしも相続放棄が認められるとは限りませんし、相続放棄をすると被相続人の貯金や土地等、正の財産まで全て放棄することになるので、まずはお近くの家庭裁判所か弁護士に相談するとよいでしょう。
父が亡くなったのですが、兄弟の中で私だけが生前に父から不動産を贈与されていたこともあり、遺産分割を巡ってもめています。兄弟達は「お前は既に家をもらっているのだから、相続の権利がないはずだ」などと言います。私は実家に残って農業を継ぎ、父母と同居してずっと面倒を看てきた事情があり、どうしても兄弟の言い分には納得がいきません。生前贈与がある場合の遺産分割はどのように処理されるのでしょうか?
相続人の中に、被相続人の生前に特別な贈与を受けた者がいるような場合は、その生前贈与は「特別受益」の問題となりえます。生前贈与の以外にも、結婚資金や学資の援助、借金の肩代わりなどが考えられます。
「特別受益」が存在する場合、相続人間の公平をはかるため、特別受益と相続開始時の相続財産を合計した「みなし相続財産」を遺産分割の対象となる相続財産として遺産分割を行います(民法903条1項参照)。
このように、公平の観点から特別受益を相続財産に加えて計算し直すことを、法律用語では「特別受益の持ち戻し」と呼びます。この計算の結果、あなたが本来の相続分を超える財産を既に贈与されていたような場合は、相続すべき財産がなくなる可能性もあり得るのです。
もっとも、民法903条3項によれば、被相続人は、「持ち戻し」の免除の意思表示をすることができます。つまり、あなたのお父さんが、「生前贈与はするが、いざ相続というときには『持ち戻し』計算をしなくても構わない・・・」旨の意思を表示していれば、このような「持ち戻し」計算をしなくても済むのです。
ただ、このような意思を「明示」した遺言や文書が残っていれば問題がないのですが、多くの場合、持ち戻しを免除する旨の意思を表示した文書などは残されていないのが通常です。
この場合、被相続人に持ち戻しを免除する旨の「黙示」の意思表示があったかどうかが問題になります。つまり、生前贈与に至る様々な諸事情を考慮した結果、「被相続人が、心の中では、持ち戻しを免除する旨の意思をもっていたであろう」と認められるような場合には、持ち戻しが免除され得るということです。
黙示の持ち戻し免除の意思表示が認められるか否かは、贈与の内容や贈与に至る具体的経緯、被相続人と生前贈与を受けた相続人との関係、資産状況、収入状況等、諸般の事情を考慮して判断されることになります。
あなたの場合、生前贈与を受けた不動産の価値などにもよりますが、実家の家業を継いで父母の面倒を見ながら将来に亘って一緒に暮らしていくために必要な家屋敷の提供を受けたとも言えそうですから、持ち戻し免除の黙示の意思表示が認められる可能性も十分あるのではないでしょうか。
内縁の妻の場合、法律上、妻として認められないのは、どんな場合ですか?また、他にどんな影響がありますか?
「内縁」と言うのは、婚姻届を出していないだけなので、できるだけ、内縁にも法律上の婚姻に関する規定を準用すべきと考えられていますが、内縁は戸籍に記載されません。そのため、戸籍によって、形式的・画一的に処理する必要のあることがらには適用されません。
内縁の夫婦は別戸籍です。「夫婦同姓の原則」も適用されません。生まれた子は、非嫡出子(註1)として、母の戸籍に入り、母の氏を名乗ります。
ただ、父が承認すれば、父母の協議で子の親権者を父と定めることができます。また、家庭裁判所の許可を得て、父の氏をなのり、父の戸籍に入ることもできます。
※註1「非嫡出子…法律上の夫婦関係にあたる男女を父母として出生した子(嫡出子)以外の子」
内縁関係は、法的縛りがないので、強制できる性質のものではありません。
したがって、合意によってはもちろんのこと、片方からの一方的意思表示により、解消できるとされています。
ただし、正当な理由もなく、内縁を解消した者に対しては、相手から慰謝料の請求ができますし、内縁解消に伴う財産分与の請求も認められています。
内縁の夫婦のどちらか一方が死亡した場合、生存している他方には、配偶者としての相続権は認められないというのが判例、通説です。財産を残すには生前贈与か、遺言を残すことが必要です。
労災その他の社会保険上の給付は、実体的生活関係に基づく保障という考え方から、内縁に対しても法律上の夫婦に準じた給付が認められています。